
投稿日:2025.06.18 最終更新日:2025.07.16
【NECSUS Green File】インタビュー =雨宮寛の「先見」=
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【NECSUS GREEN FILE】
インタビュー
=雨宮寛の「先見」=
「Green MBA®」の商標を日本で登録し、その普及と向上に努める雨宮先生にお聞きしました。
略歴:慶應義塾大学経済学部卒業。コロンビア大学ビジネススクールで経営学修士号、ハーバード大学ケネディ行政大学院で行政学修士号を取得。クレディ・スイスやモルガン・スタンレーなどの外資系金融機関で活躍した後、DWMインカムファンズ日本事業代表、アラベスクS-Ray日本支店代表、RG Sciences日本事業担当として活動。2006年に有限会社コーポレートシチズンシップを設立し、起業と社会貢献を広めるための活動を展開。また、個人としても社会貢献に強い関心を持ち、NPO法人ハンズオン東京の顧問を務めている。さらに、法政大学現代福祉学部および明治大学公共政策大学院にて兼任講師として教鞭を執っている。ビジネス書の翻訳家としても活動中。
Q1. 経済学がご専門ですが、実務に関するご経歴についてお聞かせください。
実家が広告会社を営んでいた影響もあり、大学では経済学を学びました。経済を通じて世の中の仕組みを理解したいという思いからです。卒業した頃はバブル崩壊の直後で、広告業界も大変厳しい状況にありました。さらに父が病で倒れ、障害を持ったこともあり、家業を廃業する決断をしました。
その後、外資系の金融機関に就職し、ここが現在のキャリアの起点です。ただ単に投資による収益を追求するのではなく、投資を通じて社会に良い影響を与えたいという思いがありました。当時の金融業界では収益性が最優先で、社会的意義や環境への配慮はほとんど重視されていませんでしたが、私は独自に調査を重ね、環境にも社会にも良い投資商品を構想するようになりました。
Q2. 海外のサステナビリティ評価会社での活動について教えてください。
金融業界での経験を通して、さらに専門知識を深めたいという思いから、30代半ばでハーバード大学ケネディスクールに留学しました。行政や政策に特化したスクールですが、企業の社会的責任やコーポレート・ガバナンスといったテーマを扱うプログラムがありました。
そこで出会ったのが、国連「ビジネスと人権」指導原則を策定したジョン・ラギー教授です。彼のもとで、企業が人権に関する方針や救済制度を整備しているかを調査するプロジェクトに参加しました。
また、サステナビリティ評価の先駆者であるKLDを創業したスティーブン・ライデンバーグ氏のもと、同氏が設立したボストン・カレッジの責任投資研究所*にてインターンを経験し、サステナビリティ評価の実務に触れました。こうした出会いや学びが、今のキャリアに大きな影響を与えました。
*現在はハーバード大学ケネディスクールに移設
Q3. グローバル人材として必要な資質とは?
可愛がられる存在になること。これは私が若い人に伝えたいメッセージです。自信や実績は重要ですが、それだけでは周囲との信頼関係を築くのが難しいことがあります。素直に学ぶ姿勢、助けを求める勇気、感謝の気持ちを忘れないことが、グローバルな場でも大切です。
Q4. 環境経営における日本や世界の課題とは?
気候変動の影響は誰もが実感しているにもかかわらず、国や政治体制の違い、あるいは国内外の分断によって対応が進まないという構造的な問題があります。環境経営の課題は、企業単体の問題にとどまらず、地球規模の政策的・社会的課題と密接に関わっています。
Q5. 社会人が学び続ける意義とは?
仕事で直面する課題の中には、自分の力やネットワークだけでは解決できないものがあります。そうした時に、学び直しや知識の拡充が大きな力になります。学ぶことで、自分の可能性を再定義し、新たなキャリアの選択肢を得ることができます。
Q6. グリーンMBAを商標登録した経緯と、本学への提供について
ハーバード大学留学中に出会った「グリーンMBA」という言葉に強く惹かれ、日本に帰国後、将来の活用を見据えて商標登録を行いました。当時は具体的な計画はありませんでしたが、その理念には強く共鳴していました。
今回、環境経営大学院大学の構想に触れたとき、その志と熱意に深く共感しました。特に、オンライン特化型で全国・世界の学び手を対象にした教育モデルは、私が抱いていた理想と重なるものでした。理事長の熱い思いに応えたいという気持ちから、グリーンMBAの名称を提供することにいたしました。
Q7. 雨宮先生が影響を受けた書籍について
「あなたのTシャツはどこから来たのか?」という書籍は、私が最初に翻訳した本であり、サステナビリティやグローバリゼーションの複雑な構造を理解するうえで非常に影響を受けました。原材料から生産、販売、廃棄までのプロセスを追うことで、グローバル経済のつながりを身近に感じることができます。グローバルな視点を持ちたい方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。
Q8. 環境経営大学院大学への共感と期待について
環境経営大学院大学の構想を初めて伺った際、理事長の熱意とビジョンに大変感銘を受けました。拠点は岐阜ながら、全国および世界の学び手を対象としたオンライン特化型の教育システムは、今後の高等教育のあり方を大きく変える可能性を秘めています。
私自身、かつてオンライン授業に対する不安を抱いていましたが、実際に教える立場になってその有効性を実感しています。環境問題というグローバルな課題に取り組むうえで、物理的距離を越えて学び合える場の重要性を強く感じています。本学の取り組みが、日本発の持続可能なビジネス教育の先進事例となることを心より期待しています。
Q9. 学び手へのメッセージ
学びは常に「知ること」だけでなく、「出会うこと」でもあります。書籍との出会い、人との出会い、未知のテーマとの出会い。その一つ一つが、人生の視野を広げてくれます。大学院での学びは、多様なバックグラウンドを持つ仲間と出会い、議論を通じて新たな価値観を創出していく場でもあります。
今を生きるビジネスパーソンにとって、変化の激しい社会をしなやかに生き抜く力を育むためにも、学び続ける姿勢こそが最も重要です。環境経営大学院大学での学びが、その大きな一歩になることを願っています。