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「ネイチャーポジティブ経営-自然資本を企業価値へ変える経営戦略-」アフターセミナー 紙上インタビュー with 宮崎智子 | NECSUS GREEN FILE

「ネイチャーポジティブ経営-自然資本を企業価値へ変える経営戦略-」アフターセミナー 紙上インタビュー with 宮崎智子

2026年9月5日、上記のタイトルで行った講演後の紙上インタビューです。 【講師プロフィール(講演時)】 ・認定特定非営利活動法人環境経営学会 副会長 ・跡見学園女子大学 マネジメント学部 兼任講師 ・NPO法人竹Eco活用 理事 ・NPO法人ジャポニカアグリ 理事 ・認定特定非営利活動法人 経営支援NPOクラブ Q:自然環境の保全と地域の人々の生計向上を両立させながら、ネイチャーポジティブな経営への転換を進めるには、先進国の企業や専門家はどのような役割を果たすべきでしょうか。地域の主体性を尊重した国際協力を成功させる鍵をお聞かせください。 A.ネイチャーポジティブを実現するためには、企業のバリューチェーンの上流に位置する地域住民の協力が不可欠だと考えています。しかし、「自然を守ってください」と求めるだけでは、協力を得るのは難しいでしょう。自然を守ることが地域にとっても経済的・社会的な利益につながる仕組みが必要です。 途上国における森林破壊や生物多様性損失の背景には、貧困や現金収入の不足など、社会・経済的な課題があります。生活のために自然資源を利用せざるを得ない状況では、規制だけを強化しても問題の根本的な解決にはなりません。セミナーで紹介したカンボジアのREDD+プロジェクトは、森林を保全するだけではなく、地域住民が森林を過度に利用することなく、暮らせる社会をつくることに取り組んでいます。 インドネシアのソングバード保全も、鳥の捕獲を規制するだけではなく、地域住民が主体となって森林を管理し、アグロフォレストリーやエコツーリズムなどの代替生計手段をつくることで課題解決を目指しています。さらに、鳥の鳴き声を楽しむ文化そのものを否定するのではなく、野生捕獲に依存しない持続可能な鳴き声コンテスト運営への転換を促しています。 これらの事例から、先進国の企業や専門家の役割は、自分たちの価値観や解決策を現地に持ち込むのではなく、地域住民自身が企画・運営に関わり、自然を守りながら発展していく環境を整えることだと考えます。企業には資金や市場との接点、専門家には知見や技術があります。それらを地域の知識や文化と組み合わせることに意味があります。 もう一つ欠かせないのが、キャパシティビルディングです。資金や技術を提供するだけでなく、地域住民が必要な知識や技術を身につけ、自ら事業を運営し、課題を解決できる力を高めていくことが重要です。外部からの支援が終了した後も、地域が自ら自然資本を管理し、その価値を地域の発展につなげていくことが、取り組みの持続可能性につながります。 国際協力を成功させる鍵は、「Ownership(地域の主体性)」「Benefit(地域への利益還元)」「Partnership(対等な協働)」 の3点にあると考えています。地域住民を単なる「支援の対象」ではなく、自然資本を守り、活かしていくパートナーとして位置づけることが求められます。 地域とともにネイチャーポジティブ経営を実践するには、「自然を守ることが地域の豊かさにつながり、その豊かさがさらに自然を守る」という好循環をつくることが大切です。その仕組みをともにつくり、最終的には地域自身がその好循環を持続させていけるようにすることこそ、先進国の企業や専門家が果たすべき役割ではないでしょうか。

広がるインパクト融資の本質を捉え直す ー借り手の中小企業側からみた活用のあり方- アフターセミナー・インタビュー with 長谷川浩司 | NECSUS GREEN FILE

広がるインパクト融資の本質を捉え直す ー借り手の中小企業側からみた活用のあり方- アフターセミナー・インタビュー with 長谷川浩司

2026年8月22日のNECSUS特別セミナーに登壇した長谷川浩司先生に、アフターセミナーインタビューを行ないました。 ・福井工業大学経営情報学部教授 ・同大学地域連携研究推進センター副センター長 ・環境経営学会副会長 ・日本経営倫理学会幹事/CSR研究部会長 ・日本リスクマネジメント学会評議員 Q.インパクト融資を企業から銀行等に提示するにあたり、第一段階は企業内部の課題と外部不経済との関連を見出すことにあり、最終段階のひとつが融資効果の評価と考えられます。それぞれの段階の留意点があれば教えてください。  A.新時代の環境経営のあり方として、次のようなフロー図を提示しました。 1.社会課題を特定→2.自社の力で課題を解決→3.課題解決で収益が拡大 →4.社会課題解決型企業になる→5.新時代の環境経営の実践 1の社会課題の特定に対しては、あまりマクロ視点で考えてしまうと、問題が大きすぎで自社ではとても手に負えないように感じてしまいますので、身近な社員の働き方や生産現場で、効率面や女性活躍推進面での課題、さらには自社製品の現地販売先における課題などを捉えてみることが重要です。 2の自社の力で課題解決に対しては、全てを自社で解決しようとせずに、社会課題解決に向けて、得意分野を持ったパートナーと連携していくことがカギになります。 3の課題解決で収益の拡大に対しては、セミナー参加者の方から貴重な生の声として、課題解決しても現状では中々収益が拡大しないというお話を受けました。現状では、確かにご指摘のとおりという実態はあろうかと思いますが、それでも、現状を100%肯定してしまうのではなく、諦めずに社会課題解決が収益に繋がる社会を目指していくことが大切であり、そのような経営者の経営マインドこそが新時代の環境経営の実践なのでないでしょうか。 因みに、どこまで史実に沿っているかは分かりませんが、8月23日に放映されたNHK大河ドラマの中でも、「新しい世を創るんだ」と力強く宣言する将の方に心が動かされて、その力に加わるというシーンが描かれていました。 また、4の社会課題解決型企業になることに対しては、「中小企業庁が推進するローカルゼブラ企業」の例を参照しながらご説明したとおり、課題を特定した後にこれを自社のビジネスモデルに沿って仕組化し、それにより社会課題の解決に繋がる“インパクト”が効果として表れ、その効果を測定していくことが重要になります。 ※さらなる学びに向けて 今回は、基礎的な概念がとても重要であることを踏まえて、根底にある考え方を中心にお話しましたが、さらに具体的に学びたい方は、差し当たり、下記の文献を参考にしてみてください。 *月刊金融ジャーナル4月号及び5月号(日本金融通信社発行)連載 「本質を捉えた“インパクト融資”実銭へ 「 地銀コーポレート・ガバナンス3. 0 」とは *サステイナブルマネジメント第25巻収録 「インパクトの本質と経営理念に照らした地域銀行インパクト融資のあり方」

サステナビリティ経営は競争優位になるのか ― パタゴニアの事例から考える価値創造経営 ― アフターセミナー・紙上インタビュー with 竹原正篤 | NECSUS GREEN FILE

サステナビリティ経営は競争優位になるのか ― パタゴニアの事例から考える価値創造経営 ― アフターセミナー・紙上インタビュー with 竹原正篤

2026年7月25日、上記のタイトル開催した講演後の紙上インタビューです。 【講師プロフィール(講演時)】 ●株式会社T Insights代表取締役 ●環境経営学会理事 東京経済大学非常勤講師 ●大妻女子大学非常勤講師 ●損保ジャパンと日本マイクロソフトでサステナビリティ経営推進を担当 ●法政大学教員を経て現職 Q.先生のお話から、パタゴニアの成功要因は、環境理念と、それを実践する経営構造を一体として構築したことにあると理解しました。 一方で、既存企業にとっては、理念を浸透させることも、それを支える経営構造を変革することも容易ではありません。特に、シュイナード氏のように、自身の原体験を環境経営の理念へ昇華できる経営者は今のところ多数とは言えなさそうに感じます。 そこでお伺いします。 既存企業の経営トップが環境経営・サステナブル経営へ転換を進める際、実践上、特に留意すべきことは何でしょうか。理念の浸透と経営構造の改革という二つの観点から、優先順位の高い取り組みを教えていただけますでしょうか。 (例えば、以下のような取り組みが想定されますが、、、) 【理念の浸透】 朝礼や会議で理念を継続的に確認する 理念について内省する機会を設ける 理念共有ミーティングを実施する 1on1を通じて理念と業務を結び付ける 【経営構造の改革】 小規模な部門から段階的に導入する 部門長との対話を重ねる 取引先や外部ステークホルダーと意見交換を行う A.私は、既存の企業が実効性の高い環境経営・サステナビリティ経営を実践するためには、「理念の浸透」と「経営構造の構築」を別々の課題として捉えずに、一体のものとして取り組むことが重要だと考えています。  今回の講演でもお話しさせていただきましたが、パタゴニアの成功要因は、優れた環境理念を掲げたことで終わらずに、その理念を日々の経営判断や事業活動の中で実践できるような経営構造を、時間をかけながら構築していったことにあります。  理念を企業内に浸透させるためには、社員が理念を深く理解するようになる取り組みに加えて(朝礼や会議で理念を継続的に確認することは私も重要だと考えています)、理念を自分事ととらえて実践できるように、経営として仕組みを構築することだと考えています。理念が真に企業に浸透した状態とは、社員が理念を深く理解し、日々の意思決定の基準になっている状態だと考えております。  理念の浸透という点では、稲盛和夫氏が京セラで実践し、日本航空(JAL)の再建プロジェクトでも実践され大きな成果を挙げた「京セラフィロソフィ」が、大変示唆に富む事例です。 理念を繰り返し学び、対話を通じて社員一人ひとりが自らの仕事と結び付けて考える機会を設けたことで、理念が組織文化として根付いていきました。 そして、京セラやJALの変革はフィロソフィだけで実現したわけではなく、少人数で収益に責任を負うアメーバ経営をはじめとする経営システムと一体で運用されたからこそ、理念が日々の経営や現場の行動へと結び付いたのだと考えられます。  このように、実効性の高いサステナビリティ経営の実践のためには、理念の浸透と合わせて、理念を経営管理の仕組みに組み込むことが重要だと思います。 具体的には、以下のような点が重要と考えております。 サステナビリティを中期経営計画などの経営戦略へ統合すること その実現に向けた目標やKPIを設定し、継続的にモニタリングすること 役員・従業員の評価や報酬制度へ反映すること 取締役会が継続的にレビューし、経営資源の配分へ結び付けること  こうした仕組みが整うことで、理念が、組織として継続的に実践されるものになると考えます。 理念を具現化するような経営戦略を策定し、実効的な戦略実行のためにKPIを設定し、それらのKPIが評価・報酬や経営資源配分へと結び付いていく。そのような仕組みを、程度時間をかけてでも構築していくことが、実効性の高いサステナビリティ経営へ向けて必要なことと考えております。 下線は編集部

「誠実な企業が報われないのはなぜかーパーパスと競争優位から考える環境経営-」アフターセミナー 紙上インタビュー with 片山郁夫  | NECSUS GREEN FILE

「誠実な企業が報われないのはなぜかーパーパスと競争優位から考える環境経営-」アフターセミナー 紙上インタビュー with 片山郁夫 

6/25(土)のNECSUS特別セミナーに登壇した片山郁夫先生に、アフターセミナーインタビューを行ないました。 片山郁夫先生プロフィール(講演時) ・立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科 特任教授 ・特定非営利法人 環境経営学会 副会長 ・SOMPOビジネスサービス株式会社 常勤監査役 ・博士(サステナビリティ学) Q.環境経営の必要性が高まる中、「正しく」かつ「勝てる」経営理念の統合、浸透、実践のサイクルを回すには、今まで以上のスピードと大胆な方向転換が求められそうです。この状態で、経営者はどのような資質をどう高めるべきか、そしていかに組織をまとめていくかにつき、お考えをお聞かせください。 A.私は、これまでの企業人としてのキャリア、環境経営学会での活動、そして現在の常勤監査役としての視点を通じて、数多くの経営者の葛藤と意思決定の現場に向き合ってきました。その中で私が考える、これからの激動の時代を生き抜く経営者に求められる資質は、大きく三つあります。 第一に、「理念を『判断軸』として使う力」です。 不確実性が高まり、あちらを立てればこちらが立たないような複雑な経営環境では、「何を大切にする会社なのか」という経営理念やパーパスが判断の最後の拠り所になります。しかし、パーパスは掲げること自体が目的ではありません。日々の苦しい意思決定の現場で、それを具体的な「判断軸(拠り所)」として実際に使いこなすことが大事なのです。言葉が飾りではなく、組織を動かす実践的な判断軸になったとき、目指す方向はブレなくなります。 第二に、「矛盾や葛藤の中で、自らをアップデートし続ける力」です。 現代のビジネスには「一つの正解」などというものは存在しません。既存事業の維持と新規事業・新規投資のバランス、短期的な利益の確保と中長期的なサステナビリティへの対応など、経営者が直面する課題は常に矛盾をはらんでいるからです。「私は正しい」と過去の成功体験や正論に固執するのではなく、むしろ、変化する社会の要請や顧客、環境、そして現場の従業員との対話から学び続けること。自らの常識を疑い、思考をアップデートしていく柔軟な姿勢こそが不可欠です。変化する社会の要請や顧客、環境、そして現場の従業員との対話から学び続け、自らの常識を疑い、思考をアップデートしていく柔軟な姿勢こそが不可欠です。 第三に、「理念を現場の『行動』へと翻訳する力」です。 どれほど立派な経営理念や戦略を経営トップが唱えても、それが現場の日々の判断や評価制度、組織文化にまで落とし込まれなければ、社員の行動は変わりません。経営者の真の役割は、大義を語ること以上に、「利益が一時的に減るかもしれない、あるいはルールとの狭間で悩むこの泥臭い場面で、私たちはどう判断すべきか」という課題に対して経営者としての具体的な姿勢を示し続けることにあります。つまり、理念を「綺麗な言葉」から「一貫した組織の行動」へと翻訳することです。 先日のセミナーでもお話しした通り、「正しいこと(大義)」と「勝てること(利益)」は対立するものではなく、その矛盾や葛藤を抱えながらも、科学的思考、すなわち事実やデータ、対話を踏まえながら統合していくべきものです そして、私はここで一つ強調したいことがあります。企業の中で組織や部署を預かり、日々現場の矛盾や板挟みと戦っている多くのビジネスパーソン(ミドルマネジメント層)にこそ、全く同じことが言えます。トップの想いを深く汲み取りながら、それを現場の納得感ある「行動」へと翻訳していく役割こそが、実質的に組織を動かすからです。 経営者、そして現場のリーダーたちが葛藤の中で一貫した意思決定を積み重ね、その真摯な姿勢を組織に示し続けることが、環境経営、ひいては企業経営そのものを持続可能な「競争優位」へと昇華させていくことだと考えます。 最後に、環境経営は、単なる「環境のための特殊な経営」ではないと思います。それは、「100年後も、社会や顧客、環境、そして従業員から必要とされ続ける企業をつくるための経営」そのものです。言い換えれば、「正しいこと」と「勝てること」を統合し、持続可能な競争優位を実現していく経営です。そう考えると、環境経営とはサステナビリティ経営を実現するための実践そのものと言えるのではないでしょうか。 サステナ博士のビジネスラボ https://note.com/sustaina_hakase/n/n385d71678032 も合わせてお読みください。

「想いを事業に変える」 アフターセミナー 紙上インタビュー with 内山大志 | NECSUS GREEN FILE

「想いを事業に変える」 アフターセミナー 紙上インタビュー with 内山大志

上記タイトルでNECSUS特別セミナーで登壇した、フィノーカル株式会社 代表取締役 内山大志さんに、セミナー内容を受けての紙上インタビューを行ないました。 Q1.「想いを事業に変える」には、リーダーシップの取り方や組織作りが重要と考えます。自らの経験を基に、留意すべき点をいくつか挙げてください。 A1. 想いを事業に変える際は、「想いだけでは続かない」と捉え、単発の善意ではなく循環する仕組みに落とし込むことが大切です。創業支援の経験からも、リーダーは理念を語るだけでなく、同じ課題意識を持つ人との関係性を育て、対話・役割分担・個別支援を通じて挑戦の土台を整える必要があります。 「想いを事業に変えていく組織」の経営にあっては、資金繰りは元より、社員・取引先・資金提供者・社会といったステークホルダーとの調整、失敗後の責任まで引き受け、社会性と経済性の間で悩み続ける覚悟が重要だと考えています。 Q2. 事業内容や規模により、資金調達方法は異なるとのことですが、一般論としてそれぞれの特徴を教えてください。 A2.資金調達は、事業内容と組織形態で特徴が異なります。中小企業型の株式会社は事業収益・出資・融資が中心で説明しやすく、スタートアップ型は第三者割当増資等で大きく調達しやすい一方、成長と投資家リターンの責任が重くなります。合同会社は定款自治の観点から組織設計の自由度が高いですが、株式の発行による資金調達ができないため、大規模な資金調達には不向きです。一般社団法人・一般財団法人・NPO法人は寄付、会費、事業収益等を使いやすく共感を得やすい反面、意思決定や情報開示が重要となるため初期段階では事務負担が大きくなります。 また、資金調達には、それぞれの組織形態に適した手法が様々にありますが、それぞれに特徴があり、正解を一つ選ぶより事業に合わせた組み合わせが肝要です。

サステナ経営戦略を財務とつなぐ -本当のPBR(株価純資産倍率)対策、ICPと財務指標のコラボレーション- アフターセミナー紙上インタビュー&解説   講師:柏原岳人(柏原総合環境会計事務所 代表 税理士 コンサルタント) | NECSUS GREEN FILE

サステナ経営戦略を財務とつなぐ -本当のPBR(株価純資産倍率)対策、ICPと財務指標のコラボレーション- アフターセミナー紙上インタビュー&解説   講師:柏原岳人(柏原総合環境会計事務所 代表 税理士 コンサルタント)

【編集部】この度の企画は、第1回2月7日開催の導入編、第2回3月7日開催の実践編、今回の第3回4月25日の応用編を開催してきました。 第1回(2月7日:導入編)サステナ戦略と財務をつなぐインターナルカーボンプライシング(ICP) 第2回(3月7日:実践編)GX戦略に不可欠な損益計算書と貸借対照表をICP分析で読み解く 第3回(4月25日:応用編)本当のPBR(株価純資産倍率)対策、ICPと財務指標のコラボレーション 今回の第3回(4月25日:応用編)「本当のPBR(株価純資産倍率)対策、ICPと財務指標のコラボレーション」を開催しました。 【編集部】サステナビリティに関する事象は国際的動向と連動し不確実性が高く、また制度面も評価が定まるまでに時間を要すると認識しています。このような状況下で、サステナビリティ要素を経営分析・意思決定に反映することは、実務上かなりの複雑性を伴うと考えます。どのように捉えるべきでしょうか。 【柏原】個別の企業経営を好転させる、個人のスキルアップを図る、ために今回のような講義を受けてみようと考える際に、どうしても特定のスキルなど近視眼的に役に立つ内容だけに目が行きがちです。しかし、深い理解で長期的な成果を獲得する主体は、長期的な背景を深く理解し、本質的な潮流を掴んで付加価値を継続的に産み出しています。今回の講義でより深い理解をしていただきたい背景は、「実体経済の景気循環とインフラとしての開示基準」という論点です。景気循環について基礎知識としては、下記のような学説区分をまずはご理解ください。ネーミングは主要な学説提言者に因ります。 キチン・サイクル (短期・在庫循環) 期間: 約3〜4年(約40ヶ月) 要因:企業の在庫投資の増減。需要増に応じた積み増しと、過剰在庫による削減。 ジュグラー・サイクル (中期・設備投資循環) 期間: 約10年 要因:企業の機械・工場などへの設備投資。企業の業績変動に大きな影響を与える。 クズネッツ・サイクル (長期・建設循環) 期間: 約20年 要因: 住宅やオフィスの建設投資。人口動態や都市化に関連する。 コンドラチェフ・サイクル (超長期・技術革新循環) 期間: 約50〜60年 要因: イノベーション(技術革新)。新しい産業の創出が経済を牽引する。 気候変動の例を採りますと、1997年に開催された京都議定書からパリ協定で設定されている2050年のカーボンニュートラル目標は、GHG(温室効果ガス)やエネルギー問題に関する超長期の技術革新を想定したコンドラチェフ・サイクルを前提としたプロセスです。この循環では、数回の紆余曲折を想定しなければなりません。 この超長期循環の中には、クズネッツ・サイクルが2~3回入ります。1996年に環境ISOが開始し環境マネジメントシステムを世界に普及させ今や当然の存在になりました。2013年にIIRCが国際統合報告フレームワークを提言し財務資本と非財務資本(自然/製造/社会関係/人的/知的資本)の概念を明確にしました。2023年にはIFRS財団がISSB基準を提示してサステナビリティ開示のグローバルスタンダードの形成に乗り出しました。 これから2050年までの期間で財務関連情報としてのサステナビリティ開示が成熟していくことが想定されています。この期間のプロセスイメージは、図解1「財務関連情報としてのサステナビリティ開示を成功させるための思考法」をご覧ください。 スクリーンショット 2026-05-15 01.12.27 2026年の現状は、上場企業が発行する「統合報告」と「財務報告」という異なる報告内容を並列して関連性を説明していく段階です。統合:Integrationの段階は、財務関連情報の範囲は限定的でサステナビリティを実現すべき当事者としての報告責任を果たしている範囲も限定的です。この統合段階からISSB-SSBJ基準などの諸改革をクリアしながら、サステナビリティ開示に関連する各要素を再構築していく段階に突入していきます。 この再構築の際に必要な要素が、気候変動関連の取組みにおける触媒としてのICPです。各取り組みテーマにおける「触媒」たる存在についてマスターしていくことがこれからのカギになります。この段階は、触媒を用いて各要素を再構成して結合させていく合成:Syntheticのプロセスと捉えられています。最終的に「統合報告」と「財務報告」とを明確に区別しない報告形態の状態を融合:Fusionの段階と捉え、この着地点に向けたプロセスが、実体経済のクズネッツ・サイクルとリンケージして進行していく想定をしておいてください。 【編集部】本来は全社的な中長期経営計画の中で統合すべきテーマと理解しておりますが、現実的にはまず情報開示の整備・高度化を起点として、「サステナ経営戦略と財務の接続」を段階的に進めていくアプローチが有効と考えます。この理解について見解をお伺いできますでしょうか。 【柏原】2026年の段階をどのように捉えるかは、企業の規模と背負うべき責任によって異なってくると考えます。プライム上場で時価総額も大きく、数多の、多種多様なステークホルダー、に対して責任を負う巨大企業は、図解1で示した「統合:Integration」から「合成:Synthetic」へ移行しなければならない段階に立脚しています。サステナビリティ開示のテーマを各々財務とどのようにリンケージしていくべきか分析し段階的に再構築していくことが求められ、各テーマにおける「触媒」たる存在を突き止め、「融合:Fusion」の段階に進む準備を見定めておくことが最も理想的です。気候変動におけるICPは、触媒として先行して構築されつつあるので他のテーマにとってマスターすべき項目です。 上場企業でも巨大企業ほどではない存在においても「統合:Integration」の段階に長々と停滞することは様々な損失を産みます。企業の規模と背負うべき責任の違いに基づき、段階的に「合成:Synthetic」へ移行することを準備しなければなりません。 【編集部】サステナビリティ関連の投資判断において、「ROIC>WACC(ハードルレート)」を基準とする考え方は非常にシンプルで有用と理解しています。一方で、ROICを精緻に算出できる単位は実務上、事業部レベルが限界ではないかとも感じておりますが、この点についてどのようにお考えでしょうか。 また、仮に事業部または全社単位で評価する場合、ROICとWACCの差(スプレッド)については、企業や事業のライフステージによって求められる水準が異なるとの理解でよろしいでしょうか。 【柏原】「事業部レベルが限界ではないか」という感覚は非常に的を射ています。生態系から得る資源に関する制約が益々顕在している経済環境が暫く続く予想の中では、事業内容を見直すプロセスでROICをきめ細かく適用していくことが成功のカギになります。上場企業では東証からの要請もあるので是非ともきめ細かく取り組んで欲しいです。事業規模を拡大する、上場する、持続可能な成長を目指す、ならば、事業部レベルで留まる感覚では未来に大きな足枷となることでしょう。 図解2「企業のライフステージ/事業セグメントの成長プロセス」をご覧いただくと、現状が成長助走期に位置していたとしても、先々のステージではROICを自由自在に使いこなしていかなければなりません。また、図解2をご覧いただけると、ライフステージ/成長プロセスに応じて求められる分析項目と分析ポジションは異なります。上場企業に対する東証からの要請である「ROE:自己資本利益率8%、PBR:株価純資産倍率1倍以上」というラインは最低目標であり、ここで立ち止まらず、高みを目指してもらわなければなりません。 【編集部】聴講された皆さんにとっても、基本と実務とを往来しながら理解を深めていく、どなたにも満足度の高いセッションだったのではないでしょうか?ご参加にお礼申し上げます。

1.「サステナビリティと経営戦略」ー環境課題を自社の競争力に変えるー アフターセミナー 紙上インタビュー 雨宮寛 | NECSUS GREEN FILE

1.「サステナビリティと経営戦略」ー環境課題を自社の競争力に変えるー アフターセミナー 紙上インタビュー 雨宮寛

「サステナビリティと経営戦略ー環境課題を自社の競争力に変えるー」と題し、3月17日(火)にNECSUSオンライン特別セミナーにて講演した雨宮寛先生に、紙上インタビューをお願いしました。 Q1 日本のサステナブル経営(環境経営)意識や取組の様子を他国と比較し、特徴があれば教えてください。 日本企業のサステナブル経営に対する意識や取組みは、国際的に見ても非常に高い水準にあると考えています。その背景には、地震や台風をはじめとする自然災害が多発する国土特性があり、企業経営の中に自然環境リスクをあらかじめ織り込まざるを得ない事情があります。 先日、ベネズエラの優勝で幕を閉じたワールドベースボールクラシックにおいて、日本がベスト8で敗退した要因の一つとして、試合球やピッチクロックといった国際基準への対応が挙げられました。この例になぞらえるならば、日本企業も同様に、すでに自然環境リスクを経営に組み込み、高度な対応を行っているにもかかわらず、国際的な取り決めやルールへの適応に多大な時間と労力を要し、その結果、取り組みの本質的な価値が正当に評価されていない側面があるのではないかと感じています。 さらに、日本は1960年代から70年代にかけて高度経済成長期を経験し、その過程で生じた公害など、経済成長がもたらす負の外部性への対応にも真剣に取り組んできました。すなわち、日本企業は、自然災害という外部環境からのリスクへの対応のみならず、自らの事業活動によって生じ得る負の外部性への対応も積み重ねてきたと言えます。こうした歴史を踏まえれば、日本企業は環境経営の分野において、世界に先駆けた役割を果たしてきたと評価してよいのではないでしょうか。 Q2 サステナブル経営(環境経営)を長きに渡り研究しておられる先生の視点では、今、日本でサステナブル経営の普及・発展の課題となっていることは何だとお考えですか? 欧米主導で形成されてきたグローバルスタンダードへの対応に対する躊躇や、それに伴う「ガラパゴス化」の問題は、日本企業にしばしば指摘される課題です。その大きな要因として、言語の壁や文化的な違いが挙げられることが多いですが、まさにこうした日本企業の「苦手領域」は、AIの活用によって克服できる可能性があると考えています。 多くの日本企業はすでに環境経営やサステナブル経営を実践、あるいは少なくともその重要性を十分に認識した上で経営を行っています。今後は、こうした企業の実際の行動や価値観を、投資家や取引先、地域社会など多様なステークホルダーと効果的に対話・発信していくことが重要になります。その際にAIを積極的に活用することで、言語や文化の障壁を超えたコミュニケーションが可能となり、日本企業の取り組みがより正確に、かつ公正に評価されるようになるのではないでしょうか。 結果として、AIは単なる効率化の手段にとどまらず、日本企業の国際的な評価を高めるための重要な戦略ツールになり得ると考えています。 (以上)

「サステナ経営と財務をつなぐ」GX戦略に不可欠な損益計算書と貸借対照表をICP分析で読み解く アフターセミナー紙上インタビューPart2 柏原岳人 | NECSUS GREEN FILE

「サステナ経営と財務をつなぐ」GX戦略に不可欠な損益計算書と貸借対照表をICP分析で読み解く アフターセミナー紙上インタビューPart2 柏原岳人

2026年3月7日開催、「サステナ経営戦略と財務をつなぐ」「GX戦略に不可欠な損益計算書と貸借対照表をICP分析で読み解く」を担当した柏原岳人です。柏原総合環境会計事務所を主宰し、企業のサステナビリティ開示をサポートしています。 この度の企画は、今回を実践編として3回開催していきます。 第1回(2月7日:導入編)サステナ戦略と財務をつなぐインターナルカーボンプライシング(ICP) 第2回(3月7日:実践編)GX戦略に不可欠な損益計算書と貸借対照表をICP分析で読み解く 第3回(4月25日:応用編)本当のPBR(株価純資産倍率)対策、ICPと財務指標のコラボレーション 次回、第3回(4月25日:応用編)「本当のPBR(株価純資産倍率)対策、ICPと財務指標のコラボレーション」の募集を行っています。ご希望の方には、第1-2回のアーカイブ動画及び資料を提供いたします。第3回からの受講でも理解できますのでお気軽にお申し込みください。 第1回(2月7日:導入編)では、内部炭素価格(インターナルカーボンプライシング:ICP)の基礎知識について理解を深め、環境経営-サステナビリティ経営を経営戦略の中に融合していくために必要な財務と環境-サステナビリティの連携を実現していくための技法を紹介しました。このインタビューで登場する専門用語については、第1回のインタビュー記事を参照して理解を深めてください。 第2回(3月7日:実践編)「GX戦略に不可欠な損益計算書と貸借対照表をICP分析で読み解く」では、内部炭素価格(ICP)を適用することで見えてくる、損益計算書及び貸借対照表などの財務諸表に与える影響分析、財務諸表に影響を与えるESG要素との関係を明示する財務影響経路の重要性、など内部炭素価格(ICP)が導入されることにより進展が期待される財務情報とサステナビリティ情報のリンケージについて解説しました。 2026年以降の大きな動きとして、SSBJ基準を開示規範として証券市場におけるサステナビリティ開示が法制度化される予定です。プライム上場企業に対して5年平均の時価総額に応じて段階的に対象企業を増やしながら、有価証券報告書上を起点とした開示が進展することを想定してプライム上場各社も取り組みを進めています。(最短で2027年3月期から時価総額3兆円以上のプライム上場企業から段階的に義務化される見通し) サステナビリティ開示の制度化による影響は、義務化された企業に連なるサプライチェーンを通じて波及することが想定され、サプライチェーンの中で持続的に重要な一員としてあり続けるためのツールとして、義務化対象であるかを問わず、気候変動マネジメントの重要分析思考としてICPをマスターしていただきたいです。   【質問1】 SSBJが義務化された企業に連なるサプライチェーンを通じて「財務と環境-サステナビリティのリンケージ」の影響が波及することが想定されますが、小規模な事業者がサプライチェーンの中で持続的に重要な一員としてあり続けるためには、どのように経営革新を進めていけばよいでしょうか?   【回答1】 SSBJが義務化された企業に連なるサプライチェーンは、Tier1…2…3というように多層化しています。Tier1はSSBJ義務社が打ち出すサステナビリティ戦略を理解し、その戦略に貢献する製品及びサービスを提供していくことで、サプライチェーン全体で持続可能なビジネスを展開していくことに寄与していきます。ビジネスにおいて、自社が位置する経済圏と社会全体の持続可能性を更新し続ける以外にサステナビリティに貢献し、末永く自社を存続させることは出来ません。歴史上でその実例は枚挙に暇がありません。Tier2以降も基本的な認識は同様ですが、規模によって取り組み方に差異が生じます。 < SSBJ義務社 > GHGの例を見ると、カーボンニュートラル戦略を提示し、短期-中期-長期-超長期の各々の視点でサステナビリティと経営戦略とをリンケージさせ、GHG及びエネルギー効率に関する対策と企業価値の向上が矛盾せずに進展し、移行計画の様相を開示し、その計画を想定通りにクリアしているという実績報告が必要とされます。 < Tier1該当社 > 義務社のサステナビリティ開示に格納される情報(GHGにおけるScope3情報など)を提供し、戦略を理解して貢献力のある製品及びサービスを通して、自社の企業価値とサプライチェーンの強化を目指します。小規模事業者がサプライチェーン上位企業の構想力や意向で振り回される事態は、ビジネスの世界では日常茶飯事です。サステナビリティのテーマは多岐に亘り、義務社とTier1の構想力の違いが、Tier2以下のサプライチェーン各社に大きな影響を与えてしまいます。 GHGの例をとりますと、「売上内訳を低炭素な状態に向上されるための研究投資」「現行の生産状態を改善するためのGX投資」「GHG及びエネルギー需給の状況、市場の動向、などを勘案して財務計画から悪い方向に逸脱した資産・事業等の減損処理」「カーボンニュートラルに向けた移行計画を構成するシナリオと現実がどの程度乖離しているか評価するシナリオ分析の更新」という要素が少なくとも、義務社とTier1からアナウンスされない限り、Tier2以下のサプライチェーン各社は、短期-中期-長期-超長期の各々の視点でサステナビリティと経営戦略とをリンケージさせた経営戦略を練り上げていくことは出来ません。サプライチェーンの構成員が持続可能な経営を行うためには、義務社とTier1の構想力、提示力、が必要なことをご理解ください。 < Tier2以下に該当するサプライチェーン構成社 > サプライチェーンの構成員たる小規模事業者に関しては、義務社とTier1の構想によって提示されている内容を理解し、自社の製品及びサービスがどのように貢献し評価されるかを意図して経営戦略を練ることが求められます。サステナビリティと経営戦略とをリンケージさせることは、財務関連情報として開示する義務がなくとも、サプライチェーンの構成員として戦略立案から実行、そして実績報告及び上位企業とのコミュニケーションに至るまで、逃れることができない要素になるでしょう。 法規制をクリアするということは当然ですが、これらの戦略を先読みで織り込むことが企業価値を長期視点で向上させることに繋がります。単一グループのサプライチェーンに依存するリスクが認識させる状況では、複数にコミットしていることが容易に想定でき、複数の構想を参照する経営戦略が必要になるでしょう。ICPのコンセプトを理解することは、サプライチェーンの構成員としての能力を上げるために必要となるでしょう。   【質問2】 カーボンニュートラルの視点を取り入れた経営計画への移行には、財務の視点とリンケージした視点で、短期から長期の目標と計画を設定して活動する必要について理解しました。ICPを取り入れた将来的な利益の試算、その逆算による短期目標設定などを組み込むとなると、従来の環境経営のイメージでは、経営企画部門とサステナビリティ関連部門との連携にかなり時間を要するように感じられます。スピード感をもって進めるうえでのポイントがあれば教えてください。   【回答2】 SSBJではサステナビリティ開示を「財務関連情報」として有価証券報告書に掲載することを求められているので、経営企画部門とサステナビリティ関連部門との連携はかなり密に行う必要があります。SSBJを十分に反映して優良な財務関連情報とするには、サステナビリティ関連のリスク及び機会を把握し、ビジネスモデル及びバリューチェーン・サプライチェーンに対する短/中/長期の影響を分析して重要性が高いテーマを抽出し、財務諸表に数値的な影響を与え得る財務影響経路に関する要素を明らかにする必要があります。財務関連情報として開示までの手順を簡略に示すと以下のようになります。   サステナビリティ関連のリスク及び機会を把握 →ビジネスモデル及びバリューチェーン・サプライチェーンに対する短/中/長期の影響を分析して重要性が高いテーマを抽出 →カーボンニュートラルなどの中長期を前提とした移行計画を構成するシナリオ分析を行う →財務諸表に数値的な影響を与え得る財務影響経路を明確にする →財務関連情報としての移行計画を設定する →移行計画の遂行状況を実績情報と将来情報とを合わせて開示する 財務情報を生成する際には、日常処理から決算事務、そして外部開示まで内部統制として一定の手順が事前に決められている必要があります。サステナビリティ開示ではこれから開示までの手順が確立されていく予定であり、先行して開示が義務化された会社を中心として実務が明確化されていくでしょう。特に、これらの要素間の影響プロセスを概略的に示す「財務影響経路」として整理されます。 GHGの例をとると、   考え得る多様なテーマについて、このような整理をした上で、開示までに必要な作業を明確化して開示手順を整備し、開示業務をスピードアップしていく必要があります。整備を進める際に、財務数値としての影響を具体化する技法がICPです。短期の財務影響は、損益計算書に掲載される営業利益及び当期純利益と「GHG排出量×内部炭素価格」とを比較してどの程度の高税率に耐え得るまで利益が確保できているか、を分析します。よりGHGを排出せずに効率よく利益を確保できているかという傾向を明確化し、中長期に利益を確保し続ける企業体質であるか明確化するために貸借対照表に掲載されている資産・負債に関してICPを適用して再評価します。SSBJにおいてICPが業種横断的指標として開示を義務化された理由は、ICPの技法を適用しないと財務影響経路における数値化の作業ができないという事情があります。ICPの技法を使いこなすことで検討のスピードが加速します。 〔 算式イメージ 〕 損益計算書の営業利益(当期純利益) 貸借対照表に掲載されている生産資産の減価償却対象額 Vs  GHG排出量実績 × ICP(低税率:エネルギー効率が悪い、 グローバル水準でCP耐性が低い) Vs  GHG排出量実績 × ICP(中税率:エネルギー効率が平均的、グローバル水準でCP耐性が平均的) Vs  GHG排出量実績 × ICP(高税率:エネルギー効率が良い、 グローバル水準でCP耐性が高い)   貸借対照表に掲載されている生産資産の評価額 Vs GHG想定排出量 × ICP(先進国・EUに適用されるエネルギー価格推移のシナリオ)による再評価 Vs GHG想定排出量 × ICP(新興国に適用されるエネルギー価格推移のシナリオ)による再評価 Vs GHG想定排出量 × ICP(新興国に適用されるエネルギー価格推移のシナリオ)による再評価   また、生物多様性及び生態系サービス(≒自然から得られる資源など)に関する開示基準を目指す自然関連財務情報開示タスクフォース:TNFD及びその開示ガイドラインが、IFRS財団傘下のISSBに合流することを表明しました。2026年10月に予定されている生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)までに公開草案が提示される予定です。 ISSBが想定するルールでは、公開草案から2年間をめどに成案するプロセスが存在し、2029年3月期に5000億円以上の時価総額を5年平均で有する企業群については、開示準備をしながらTNFDのISSB化を注視する必要が出てきました。気候変動関連基準であるS2基準が注目される機運が強い現状ですが、TNFDがISSBに組み込まれると一般基準であるS1基準が強化され、生物多様性、生態系サービス(≒自然から得られる資源など)に関する詳細な開示が求められることが想定されます。 エネルギー及び資源を海外に大きく依存する日本国内企業では、TNFDがISSB化することでエネルギー及び資源戦略を価格面及び物量面の両面から詳細に記載する必要に迫られます。ここに至ると、サステナビリティと財務とは否応なしにリンケージしなければならず、リンケージした戦略意思決定プロセスを構築する必要に迫られることを予告されているわけです。この際にもICPで用いた「GHG排出量×ICP」が応用でき、GHG排出量を他の資源指標に入れ替えれば、同様に財務影響経路における数値化の作業を進めることができます。水資源投入量ならば、IWPとなり、単位当たり価格の指標を駆使して財務インパクトを計算していきます。多くの方々が考える以上にICPの技法は、今後のビジネスプロセスに影響してくることを今回は理解していただきたいです。 (以上)

「サステナ経営と財務をつなぐ」 アフターセミナー紙上インタビュー 柏原岳人 | NECSUS GREEN FILE

「サステナ経営と財務をつなぐ」 アフターセミナー紙上インタビュー 柏原岳人

2026年2月7日開催のNECSUS特別セミナー、「GXの新常識:サステナビリティ開示が“経営分析の重要情報”になる時代-サステナ戦略と財務をつなぐインターナルカーボンプライシング(ICP)-」を担当した柏原岳人先生が紙上インタビューで再登場。柏原総合環境会計事務所を主宰し、企業のサステナビリティ開示をサポートしている方です。 3回シリーズの本初回は「そもそもサステナ経営と財務のつながりは?」から。この分野に詳しい方は復習記事としてご活用を、「財務はどうも、、、」という方は、丁寧な読み込みで理解が深まります(編集部Jは3回読みました笑)。 【編集部】「サステナ経営と財務」のセミナーは、3回に分けて学びを深める構成ですね。 【柏原】本企画は、今回を導入編として3回開催することを予定しています。 第1回(2月7日:導入編)サステナ戦略と財務をつなぐインターナルカーボンプライシング(ICP) 第2回(3月7日:実践編)GX戦略に不可欠な損益計算書と貸借対照表をICP分析で読み解く 第3回(4月25日:応用編)本当のPBR(株価純資産倍率)対策、ICPと財務指標のコラボレーションです。 【編集部】サステナ経営は財務との連動で初めて鼓動が始まります。財務の関わり方についてあらためてお話しください。 【柏原】多くの方々が、第一印象として、財務と環境がなぜ結びつくのか、と疑問に思われることでしょう。もう少し考えると、企業の視点からは、「環境対策は負担したくないコスト」という考え方が思い浮かぶでしょう。一方、社会の構成員である個々人の視点からは、環境問題やESGの主要テーマに関係する問題を社会的損失として認識し、解決すべき「社会的コスト」が存在すると確信している現実があります。 企業側が適切に社会的コストを負担して課題解決に貢献し、企業価値を確保向上し続けなければ、社会の構成員である個々人が幸せになれる素地は涵養できません。サステナビリティな社会に貢献し得る社会的コストを負担して企業価値を向上させる企業を、株式市場や責任ある企業社会、市民社会など社会側から評価する経済社会を早急に構築する必要があります。 【編集部】サステナ経営と財務の分野では、ICPやISSBといった略語が次々に生まれ、「アルファベットスープ」と称せられるほどです。少し整理して教えてください。 【柏原】上記のような経済社会を構築するために必要な企業評価のインフラとは、従来から流通する財務開示に基づく企業評価と連携できる世界共通のサステナビリティ開示基準です。2023年6月に国際的なIFRS財団によるサステナビリティ開示基準(以下、ISSB基準)が成立しました。IFRS財団は国際会計基準の制定団体であり、財務関連情報としてのサステナビリティ開示を充実させるために日々改善を進めています。 我が国でも、(公財)財務会計基準機構内に設置されたサステナビリティ基準委員会(SSBJ)によって2025年3月にサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)が制定されました。SSBJ基準はISSB基準と整合した基準として認定され、ユニバーサル基準、一般開示基準、気候関連開示基準、で構成されています。SSBJ基準で財務 関連情報として財務情報とサステナビリティ情報、特に気候変動問題が連携するテーマとして相関関係が明確な開示項目が、内部炭素価格:インターナル[Internal]カーボン[Carbon]プライシング[Pricing](以下、ICP)です。 内部炭素価格(ICP)という名称からも推察されるように、企業内部において炭素価格をどのように運用しているか開示が求められています。炭素価格とは、温室効果ガス(以下、GHG)をCO2に換算して単位当たりに課される金額であり、社会全体に租税として適用される場合は炭素税、GHGの排出量に関係させた取引市場では排出量取引(排出枠、排出権、など取引機構で名称は異なります)など、「炭素排出量×炭素価格」の基本原理に基づいて経済社会の各方面で応用が進んでいます。 内部炭素価格(ICP)を用いた開示を行うということは、財務会計で行われてきた企業内部における会計情報に基づく意思決定のプロセスに「炭素排出量×炭素価格」の基本原理がどのように組み込まれて、経営全体に気候変動対策が適切に配慮され、気候変動対策の財務影響が財務情報に反映され、財務情報及び気候変動対策の実数の双方で結果を残しているか、を開示することになります。企業経営における気候変動に関するリスクと機会、カーボンニュートラル(実質的なGHG排出ゼロ)に向けた長期視点の行動計画、を開示する際に、財務と気候変動対策の相関関係を示す重要な要素が内部炭素価格(ICP)なのです。 【編集部】業界の注目すべき最新トピックを教えてください。 【柏原】2026年以降の大きな動きとしては、SSBJ基準を開示規範として証券市場におけるサステナビリティ開示が法制度化される予定です。プライム上場企業に対して5年平均の時価総額に応じて段階的に対象企業を増やしながら、有価証券報告書上を起点とした開示が進展することを想定してプライム上場各社も取り組みを進めています(最短で2027年3月期から時価総額3兆円以上のプライム上場企業から段階的に義務化される見通し)。 サステナビリティ開示の制度化による影響は、義務化された企業に連なるサプライチェーンを通じて波及することが想定され、サプライチェーンの中で持続的に重要な一員としてあり続けるためのツールとして、義務化対象であるかを問わず、気候変動マネジメントの重要分析思考としてICPをマスターしていただきたいです。 【編集部】今後のセミナーの展開について、あらためて教えてください。 【柏原】第2回(3月7日:実践編)GX戦略に不可欠な損益計算書と貸借対照表をICP分析で読み解く、では内部炭素価格(ICP)を適用することで見えてくる損益計算書及び貸借対照表などの財務諸表に与える影響分析、財務諸表に影響を与えるESG要素との関係を明示する財務影響経路の重要性、など内部炭素価格(ICP)が導入されることによ り進展が期待される財務情報とサステナビリティ情報のリンケージについて解説していきます。 第3回(4月25日:応用編)本当のPBR(株価純資産倍率)対策、ICPと財務指標のコラボレーション、では、東京証券取引所上場部から2023年3月31日に提示された「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」に代表されるPBR問題と密接に絡むICP分析手法について解説します。既存の財務指標や分析手法とICP分析手法を組み合わせることで、PBR問題を進展させるために必要な非財務資本(製造資本、知的資本、社会関係資本、人的資本、自然資本)を充実させるプロセスを紐解くことが期待されており、内部炭素価格(ICP)が、財務関連情報として重要なサステナビリティ開示項目とされる理由となった応用範囲の広さも垣間見ていただきます。 内部炭素価格(ICP)について理解を深め、環境経営-サステナビリティ経営、を経営戦略の中に融合していくために必要な財務と環境-サステナビリティの連携を実現していくための一助になればと考えております。

MBA取得を迷っている社会人のためのリアルトーク 五十嵐篤・本学研究科長予定者メールインタビュー | NECSUS GREEN FILE

MBA取得を迷っている社会人のためのリアルトーク 五十嵐篤・本学研究科長予定者メールインタビュー

新年のNECSUS特別セミナー第一弾は五十嵐篤・本学研究科長予定者が登場。MBA取得に際し、キャリア形成、仕事/家庭との両立や学費等で迷っている人たちに向け、オンラインでトークセッションを行ないました。 以下は、そのまとめとしてのメールインタビューです。 1.MBAがどのように自分のキャリアや人生に影響を与えていますか? 私にとってのMBAは、キャリアを「前に進めるための資格」というよりも、自分のそれまでの経験や判断を問い直すための学びでした。実務の中で、自分の限られた経験から感覚的に行っていた伝え方や意思決定を、理論や分析のフレームワークも用いて、よりよい選択肢を考え、そして、説明できるようになったことで、自分の強みや立ち位置が明確になり、判断や発言に一貫性が生まれました。 また、答えを感覚的に判断したり急いだりするのではなく、問いを持ち続ける姿勢が身についたことは、その後のキャリアや人生において、大きな変化をもらたし支えになっています。MBAで得たものは知識以上に、自分自身や組織、そして社会に「問い続ける」姿勢でした。 2.MBAを検討している人へのメッセージをお願いします。 MBAを検討している方には、「今の自分に何が足りないか」ではなく、「いま自分はどんな問いを持っているか」を大切にしてほしいと思います。年齢や立場に関係なく、キャリアのどこかで正直に自分に向き合い、考え直す時間は誰にとっても必要だと考えます。多様な経験やスキルや価値観を持つ人と共に対話し学ぶことは、所属する組織へのダイバーシティのあり方や、個人のキャリア形成においても大きな意味を持ちます。もし迷っているなら、その迷い自体が問いの始まりです。自分だったらどう考え、どう判断するのか――その問いを深める場として、MBAを捉えてみてほしいと思います。

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