投稿日:2025.10.23 最終更新日:2025.10.24
今、サステナ人材に問われる「感じる力」by Thomas Kolster
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NECSUS STAFF
*6月にフランス・カンヌで開催された世界最大規模の広告とコミュニケーションの祭典「カンヌ・ライオンズ」で講演した同氏の寄稿です。
サステナ停滞は創造力で打ち破れ! -カンヌライオンズが教えてくれたこと-
今、サステナビリティには問題がある。それは「感情的に枯渇してしまっている」ことだ。多くのコミュニケーションは誠実ではあるが、生命力に欠けている――技術的には正確でも、平板なのだ。理解が足りないのではない。感じる力が足りないのだ。
今年のカンヌライオンズで、私は「感情」こそが欠けている重要な要素だと再認識した。世界最大の広告クリエイティビティの祭典は、感情をリセットする絶好の機会にもなった――すべてが手に余るように感じられる中で、私たちが本当に大切にすべきことと再びつながらせてくれたのだ。
そして、カンヌといえば華やかさで知られているが、同時に非常に真剣な競争の場でもある。93か国から26,900件のエントリーが集まり、34のグランプリが授与された。そのうち22作品がサステナビリティを中心に据えたものだった。これは偶然ではない。サステナビリティが、創造性と人間性を伴って語られたとき、人々の心を動かし、成果を生み出すという証なのだ。
笑いから課題解決へ
今年のキャンペーンの中には、実に笑えるものもあった。例えば、ニュージーランドのヘルペス財団による「世界で最もヘルペスを持つのに最適な場所」という作品。タブー視されがちなテーマを巧妙かつコミカルに切り取りつつ、スティグマの払拭に真剣に取り組んだ好例だ。
一方で、社会問題に真正面から取り組んだキャンペーンもあった。フランスのAXAによる「Three Words(3つの言葉)」という保険ポリシーの改定では、「家庭内暴力」という言葉を補償対象に加えることで、被害者への緊急支援や避難サービスの提供を可能にした。また、ブラジルの大手化粧品メーカーNaturaは、AIドローンを使ってアマゾンの樹木種をマッピングし、同地域最大規模の樹木インベントリを作成。地域住民はそのデータを活用して、持続可能な伐採を実践している。
そしてロレアルは、「Because I’m worth it(私はそれだけの価値がある)」という象徴的なコピーを再び取り上げた18分間のドキュメンタリーで、深い感情に訴える力を証明した。重みのあるメッセージには、人はしっかり耳を傾けるのだ。
語るだけでなく、行動も?
興味深いことに、気候変動への政治的反発(特に米国)を前にして、多くのブランドが沈黙している一方、カンヌではサステナビリティに関する議論が活発だった。業界は後退するどころか、むしろギアを上げていたのだ。
国連グローバル・コンパクトは「持続可能な成長のためのCMOブループリント」を新たに発表。フェスティバル自体も初となる「サステナビリティ・ハブ」を設置し、「Open House for Good」という取り組みを継続。これにより、重要な議論により広い参加を促し、多様な声を招き入れる姿勢を見せた。
しかし、楽観だけではなかった。
ロゼワインに浸されたリヴィエラでの現実チェック
活気に満ちた空気の裏では、不安の高まりがはっきりと感じられた。AIの台頭から気候変動の危機まで、壇上でも舞台裏でも会話は希望と不安の間を行き来していた。
Appleの副社長、トール・マイレン氏は「自動化時代における人間の創造力の価値」を強調したが、その言葉はやや現実とズレているようにも感じられた。テクノロジーはもはや「忍び寄って」いる段階ではない――すでにどっぷり浸かっているのだ。ビーチでのプロモーションからパネルの構成に至るまで、テックの存在感は圧倒的だった。そしてハリウッドのクリエイターたちが団結して立ち向かっているのとは対照的に、広告業界はどこに向かうかを問うことなく、ただ波に乗っているようにも見えた。
サステナビリティのループにとらわれた私たち
ツールも、才能も、ソリューションも揃っている。それなのに、システムはどこか壊れているように感じられる。私たちは堂々巡りを続けている。グリーンウォッシングを論じながら、本質的な「行動しないこと」の問題を見過ごしているのだ。
現実には、多くの人が「サステナビリティの砂漠」の中に生きている。いわゆる「より良い選択肢」も、結局は化石燃料に大きく依存している。流通とメディアに権力が集中しているせいで、真に再生可能な解決策は一般にはなかなか届かない。
それでも、あらゆる分野に「より良い商品」は存在している。1.5℃以下に抑えるための解決策も、すでにある。なのに、なぜ私たちはそれらを拡大しないのか?
今こそ、舵を取るとき
広告は人が動かすビジネスだ。プラットフォームやフレームワークが変化を生むのではない。人が生み出すのだ。だからこそ、私たちはもはや傍観していてはならない。
この業界の未来――ひいては、私たちの「社会的な活動の正当性」を守るためにも、今こそ立ち上がるべきときだ。新たな「パーパスキャンペーン」ではなく、本物のリーダーシップで。
カンヌは、私たちに「可能性」を見せてくれた。次は、私たちがそのインスピレーションを「方向性」に変える番だ。
さあ、あなたは準備ができている?