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嵐の中で揺るがない姿勢 -分断社会におけるサステナビリティ・コミュニケーション- by Antti Isokangas

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嵐の中で揺るがない姿勢 -分断社会におけるサステナビリティ・コミュニケーション- by Antti Isokangas | NECSUS GREEN FILE

サステナビリティ・コミュニケーションの第一のルールが「信頼を築くこと」であるならば、第二のルールは「風が強まってもバランスを保つこと」である。

そして今日、その風は確実に強まっている。

気候は温暖化し、経済は冷え込み、社会は分断されつつある。エネルギー政策から植物性ミルクに至るまで、あらゆる事柄に文化的な対立の溝が走っている。この状況下では、企業が行うサステナビリティに関する穏やかな声明でさえ、過剰な反応を引き起こす可能性がある。

しかし、沈黙は選択肢ではない。

文化戦争の時代へようこそ
分断はもはや一部の現象ではない。気候変動対策、多様性、国際的責任への見方は、国々でアイデンティティの象徴となっている。単なる「意見の違い」ではなく、相手を否定しなければならない空気がある。

米国では、バドライト、ターゲット、パタゴニアのキャンペーンが強い反発や不買運動を招いた。問題は彼らが何をしたかではなく、「何を象徴している」と受け取られたかにあった。

こうした動きは米国に限られない。安定と高信頼で知られる北欧でも見られる。例えばオーツ麦飲料のオートリーは、植物性食品を推進しすぎて「急進的だ」と批判される一方、大手食品企業と提携したことで「価値を妥協した」と非難されるなど、両側から攻撃を受けている。

ノルウェーやスウェーデンでは電気自動車への優遇策が対立の焦点となり、必要な気候政策とみる人と、エリート向けの特権とみる人に分かれている。フィンランドでは、乳業大手ヴァリオが「カーボンニュートラル牛乳」を掲げたキャンペーンで反発を受けた。「炭素中立の牛」という言葉はすぐにネットミームとなり、意図したメッセージは広がる前に失われた。

圧力の下で:DEIが政治の標的になるとき
米国では近年、一部企業が政治的圧力を受け、多様性・公平性・包摂(DEI)の取り組みを縮小したり、表に出さなくなった。特に保守派の政策立案者や法的な挑戦が強まり、投資ファンドや大手小売業者までもが言葉を和らげ、活動を目立たなくしたのである。

目標が変わったのではなく、政治的コストが高まったからである。

この流れは大きく報道され、企業が「価値に基づく活動」から退くのではないかという懸念を生んだ。

しかし実際は、多くの企業がDEIを放棄してはいない。むしろ、才能の確保や革新性、長期的な持続性に不可欠と考え、取り組みを強めている企業も多い。

北欧では状況は異なるが、同じ教訓が当てはまる。世論は急に変化し、社会的期待が攻撃の道具にされることもある。しかし、サステナビリティや包摂から「論争を避けるために」退くことは、内外に誤ったメッセージを送ることになる。圧力が高まるときこそ、価値観に根ざし、一貫して語り、行動し続ける企業が強くなるのである。

ビジネスは中立ではない
「どちらの立場もとらない」として沈黙を守る企業もある。しかし、サステナビリティや平等について語ること自体が、すでに「未来は大切である」「証拠は重要である」「公平さは必要である」と立場を示しているのである。

中立を装って反応を避けようとすることは、たいていうまくいかない。人々は恐れを嗅ぎ分ける。そして恐れはブランドにとって大きな弱点である。

従業員は企業がどこに立つのかを知りたい。投資家は企業が何を重視しているのかを知りたい。沈黙は盾ではなく、空白である。

声を大きくするのではなく、明確に語ること
サステナビリティ・コミュニケーションの目的は、ネット上の議論に勝つことではない。人々を行動に動かし、企業が「どのような未来をつくろうとしているか」を示すことである。

そのためには勇気と明確さ、そして少しの謙虚さが必要である。

フィンランドのエネルギー企業ヘレンは、石炭廃止を明確に打ち出しつつ、再生可能エネルギーへの移行の難しさも率直に語っている。ノルウェーのエクイノールもまた、化石燃料を守る論理から、移行の現実を正直に語る姿勢へと変化している。

嵐の中でバランスを保つためのヒント
・言いたいことを明確に述べること
あいまいな表現は誰の心にも響かない。具体的な数字や事実を示すことが重要である。

・複雑さを認めること
サステナビリティはトレードオフに満ちている。その事実を正直に共有することが信頼を生む。

・自らの声を知ること
すべてにコメントする必要はないが、企業の戦略や価値に関わる課題には明確な立場を示すべきである。

・反発に備えること
本気で取り組めば必ず反対も起こる。それは避けられない。重要なのは事前に準備し、一貫した立場を持つことである。

・信頼は勇気から生まれる
分断はすぐには消えない。むしろ悪化する可能性すらある。
しかし、明確さと自信をもってこの嵐を乗り越える企業は、より強くなる。信頼は沈黙からではなく、目的を示し、嵐の中でも揺るがずに立つことから生まれるのである。

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