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1.GXリーダー必須「あいまいさに強くなれる思考法」 日本マンパワー会長が語る「ネガティブ・ケイパビリティ」 田中稔哉 | NECSUS GREEN FILE

1.GXリーダー必須「あいまいさに強くなれる思考法」 日本マンパワー会長が語る「ネガティブ・ケイパビリティ」 田中稔哉

2025年11月29日は、「曖昧さに強くなる思考法ーネガティブ・ケイパビリティから学ぶ持続可能な成長のヒント」と題し、株式会社日本マンパワーの田中稔哉・代表取締役会長にご登壇いただきました。 以下は、ご講演終了後、本ニュースレター読者に向けミニインタビューにお答えいただいたものです。 Q1.ネガティブ・ケイパビリティとは何でしょうか? ネガティブ・ケイパビリティとはあいまいで不確実な状況の中で、 「わからなさ」を受け入れ、それに耐えながら、あきらめず、観察や 思考を続ける力(あり方)です。 私があてた訳語は、希望を内包した「保留状態維持力」です。 誰でもどこでも発揮するものですが、ポジティブ・ケイパビリティ(効率的な問題解決力)とのバランスで、優位になったり劣位になったりします。 特に対人支援は理解しきれない存在である人間を相手にしますので、必要になります。ただ数学など答えがあるように見える課題だとしても「本当にそうか」「他の答えはないか」と考え続ける姿勢は持っているべきだと思います。 Q2.環境経営を学ぶ人達が、ネガティブ・ケイパビリティという問題解決のためのアプローチを手に入れる必要性についてお答えください。 長期的視点を持つことが必要な環境問題と、それに比べて短期的な成果が求められがちな経営という、一見相反するテーマに対して、答えが見えない中でも、あきらめて思考停止になることなく、考え続け、試行錯誤し続けるには、ネガティブ・ケイパビリティが必要です。 また、SDGsなどもそれぞれの目標間にジレンマ、トリレンマがあり、企業経営でももはや「こうすればいい」という経営課題はあまりありません。 経営上の選択についても、いったんポジティブ・ケイパビリティを発揮して意思決定したとしても、それを妄信して進むのではなく、変更や修正をする構えを持ち続ける方が、VUCAの環境下では有効だと考えます。

環境経営のビジネス英語も  「プロジェクト発信」でもっと強くなる 慶應義塾大学 鈴木佑治・名誉教授 紙上インタビュー | NECSUS GREEN FILE

環境経営のビジネス英語も  「プロジェクト発信」でもっと強くなる 慶應義塾大学 鈴木佑治・名誉教授 紙上インタビュー

Q1.そもそも「プロジェクト」とはなんでしょうか? プロジェクトは発信の原点。つまりプロジェクトとは、考えを発信すること、と言えます。私たちはいつでもどこでもコミュニケーションします。 言語によるコミュニケーションはその一部で、その更に一部が英語によるものです。 「英語がうまく話せない」とよく聞きますが、英語うんぬん以前に、コミュニケーションが分かっていないからだと言えるでしょう。コミュニケーションはメッセージを作り、発信し、受信し、解釈する行為の繰り返しです。日本の英語教育に欠けているのはこのサイクルです。 英語の語彙、発音、文法などをしっかり覚えてから、その後で聞いたり、話したりしようと考えるかもしれませんが、結局、覚えきれずにギブアップというのが現状です。 何を隠そう、かつての私自身がそうでした。 中学校、高等学校、大学、そして、大学院修士課程まで、合計12年間も英語の勉強、それも専攻は英語・英文学。それで1968年にアメリカに行くのですが、着いた瞬間から全然聞きとれないは話せない。英語で コミュニケーションしたことがなかったから当然です。 シェークスピア作品を何冊読んだことか。その他の英文学作品も原書で200冊ぐらい読みました。相当の語彙力があると自負していたのに、カフェテリアcaferiaに入ったところ、注文しようとしても一言も聞きとれない話せないで情けないことに立ち往生です。 コーヒー(coffee)もまともに注文できない。クリーム(cream)は?と聞かれても答えられない。 ケースの中に並んでいる食べ物も何もかも分からない。 例えばマッシュドポテト(mashed potato)、グレービー(gravy)、なんのことやらお手上げ。ショックを受けました。 日本での12年間の英語の勉強は現地の日常生活で役立たず、その瞬間、これはダメだと思い、アメリカでもう一回やり直そうと決心したのです。そこからコミュニケーションするということはどういうことか、そして、英語でコミュニケーションをするということはどういうことかなどなど、究明する長い道のりが始まったわけです。アメリカで気づいたのは、大学でも普段の生活でもすべてがプロジェクトの連続だということです。 ちなみに、プロジェクト(project)のpro-は「前方に」という意味で、-jectは「投げ出す/投影する」という意味のラテン語です。自分の考えを「前方に投げ出す/投影する」、これぞまさしくコミュニケーションと考え、帰国し、それを英語でやってみようと決意しました。 Q2.「プロジェクト発信型英語プログラムとは」具体的にどういうことでしょうか? 私の考えた「プロジェクト発信型英語プログラム」は、ほかでもありません、アメリカ10年間のいわばプロジェクト生活のノウハウを英語プログラムに持ち込んだだけのことです。 プログラムは2つのモジュール(連動する部分構造)で構成されています。1つは英語スキルをブラッシュアップするためのワークショップと称するモジュールです。これは若手のネイティブ講師の先生たちにお願いしました。もう一つが中心的プロジェクトと称するもう一つのモジュールです。担当は私です。コミュニケーションとは関心事を巡って展開されます。それで学生さんには自分が今抱いている関心事につき、日本語であれ、英語であれ、徹底的に調べさせ、その結果を英語で発信させます。例えば野球部の学生さんは、野球が好きなので、野球を調べ始めるといった具合です。 最初は野球が好きくらいしか言えなかったのですが、例えば、キャッチャーがうまくなるにはどうしたらいいかとか、一生懸命調べるわけです。毎週毎週調べたことを英語で発表します。 要は、まず徹底的にリサーチすることを学ぶわけです。 こうして調べた成果を英語で発表するのですが、聴衆もただ聞くだけではありません。 自分の友達の関心事に関心を向けるようになり、 受信(プロジェクト/投影)する側もすぐさまコメントするなど発信モードに変わります。 これを1年生、そして2年生までやると、アカデミック・レベルの発信に変わっていきます。挨拶に毛が生えたくらいのインフォーマルな英会話ならこのプログラムでは2週間もあれば出来るようになります。6年も8年も英語を勉強するのですからその先のアカデミック英語も目指すべきです。本プログラムでは全員出来るようになります。このように、コミュニケーションはプロジェクトの連続です。この意味での英語で発信するための場づくりを目指します。 Q3.伝えるための英語、その発信は日本語でも難しいと思いますが、それを英語でどうして習得するのでしょうか? (学びは一生=Lifelong English)知識はなんであれ生涯かけて(lifelong)学習し積み重ねて行くものだと思うのです。プロジェクト科目では英語とか日本語とか分けたりしません。リサーチの段階で日本語の資料も使います。日本語でリサーチしてオーケーです。同時に英語で行うわけですから。 英語スキルをブラッシュアップするワークショップはさすがにすべて英語でやります。 プロジェクトでは、私たちは日本人ですから日本についてのコンテンツをしっかり世界に向けて発信しなければなりません。日本で日本語で伝承されてきた文化価値観は私たちにとって宝なのです。世界が知りたがっているわけですから。その日本語の情報を英訳すれば貴重な情報になります。 ただし、英語だけでは無理です。例えば、「義理」とか「人情」なんて言葉は英語に見当たりません。 近いのはobligationとかcompassionなどでしょうが少々違います。日本にきて体験しなければ分かりません。よって、英語に訳さず、giriとかninjoとして発信する、それもプロジェクトの目標とするところです。 これこそがグローバル英語、そこに入りどんどん日本の文化などを発信しなければなりません。こうして本プログラムは英語のみならず日本語プロジェクト発信型プログラムでもあり得ます。 Q4.本学大学院には様々な景をもつ社会人が集われますが、どのような内容の特別授業をお考えでしょうか? コミュニケーションは森羅万象すべての活動・事象を含みます。まずみんなでコミュニケーションとは何かを考えます。英語とか日本語とかは問いません。外国からも来られでしょうから、彼らの言語で良いのです。それぞれ個人の関心に従い、それぞれがそれぞれのテーマにつきプロジェクトを行います。リサーチの成果を英語はもちろん、日本語、その他諸々の言語で世界に発信します。ChatGPTなど最新のAIソフトは積極的に使います。テクノロジーも含めコミュニケーションとは何かを考えます。授業はオンライン上で行うのでリアルタイムで世界に発信し、世界中の友達と交流し意見を交わします。社会人ですから自己責任です。 危険を察知しながら適宜対応できる能力もグローバル・コミュニケーションでは問われるからです。内容が深ければ深いほど注目を浴びるでしょう。過去の体験から中には特許を申請できる成果も出て来る可能性大です。 様々な方々が、様々な良いテーマ良い成果を発信する、これは生涯長く続くものとなります。良いものを発信できるコミュニケーションの場であり、同時にそれについて多角的な思索の場を目指します。 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス18年間のコミュニケーション論では毎年100名以上が素晴らしいプロジェクトを行い各界で活躍しています。コミュケーションですから、受講される方々も担当する私もみんながコミュニケーターで全員が主役です。 全員が全員から学び教え合える、 そういうコミュニケーションの循環ができるような授業を考えています。きっとクラスのWebsiteは多くの成果で埋まり、世界交流の場となることでしょう。

COP30で緊急提言! -分断は、立て直せるのか- by Thomas Kolster | NECSUS GREEN FILE

COP30で緊急提言! -分断は、立て直せるのか- by Thomas Kolster

  COP30(2025年11月10日から21日までブラジルのベレンで開催の「国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(Conference of the Parties 30)」)を受け、NECSUS Green Fileで好評のサステナビジネス伝道師トーマス・コルスター氏のコラム緊急提言です。   気候運動はなぜ停滞したのか ― そしてどう立て直すのか   “道徳的優越”が招いた分断   私たちは地球を救おうとした。だが、結果的に世界を分断してしまった。 ブラジルでCOP30が開かれる今、かつての楽観は消えつつある。   「簡単なサステナビリティ」の時代は終わった。 企業は声を大きくするどころか、静かになっている。気候疲れは現実だ。予算は縮小し、成長は鈍化し、「サステナビリティ」という言葉の輝きも失われている。世界中の会議室で問いはこう変わった──     「何が正しいか?」から「リターンはあるのか?」へ。   それは冷笑ではなく、生存戦略だ。   今やサステナビリティは、倫理的な正しさだけでなく、測定可能な成果を示さなければならない。「良いことを掲げる時代」から「成果を出す良いことをする時代」へと変わりつつある。そしてこの転換には、私たちがなぜ大多数を巻き込めなかったのか──企業・社会・政治のすべてにおいて──正直に向き合う必要がある。   “純粋さ”が招いた失敗 長年、私たちは企業に「もっと速く、もっとグリーンに、もっと高く」と求めてきた。航空会社や自動車メーカーの仕事を拒否する“倫理的アライアンス”を作りながら、自分たちは平然と飛行機に乗っていた。   矛盾を抱えたまま企業に変革を迫っていたのだ。   家族をトルコ旅行に連れていくシングルマザーに「飛行機を諦めろ」と本気で言えるだろうか。航空券の値上げは富裕層ではなく、彼女のような人々を直撃する。   私たちは先頭に立って改革を進めようとしたが、しばしば 「非難」という形でリードしてしまった。   サステナビリティを“参加の連帯”ではなく、“純粋さの競争”に変えてしまった。 「十分に良い」は、いつも「不十分」とされた。 企業や人が理想に届かないと、私たちは声高に非難した。   だが、指さしは変革の燃料にはならない──むしろ凍らせる。   多くのブランドが静かに後退している。不完全な取り組みが炎上することを恐れ、第一歩すら踏み出せなくなっている。   市民レベルでも同じだ。 常に「もっとリサイクルしろ」「飛行機に乗るな」「消費するな」。   “常に不十分だ”という圧力。   大半の人も、企業も、自分を小さく感じさせる運動には参加しない。   広がってしまった分断 その結果、サステナビリティ文化は二つに割れた。   片方には、B Corp、活動家、熱心な信奉者たち。   もう片方には、傍観者のように見える“サイレントマジョリティ”──あるいは反発しはじめた人々。   炭鉱労働者や農家にとっては、サステナビリティは“エリートの議題”に見えてしまう。 彼らは土地とともに生き、私たちに食を届ける人々だ。 敵ではなく、むしろ同盟者であるべきではないか?   共感は、非難よりはるかに強い。   正義よりも“共感”が動かす 市場を本当に動かしている企業は、説教しない。   彼らはつながりを作る。   行動を決めるのは倫理ではなく、感情だと理解している。   朝食大手に挑むHollie’sは、「砂糖を減らそう」というシンプルで前向きな約束で市場を揺らしている。   オートミルクのOatlyは、植物ベースの選択を“犠牲”ではなく、文化的なウィンクにした。「簡単だよ、やってみよう」と。   これらのブランドが成功する理由は、 完璧だからではない。共感できるからだ。   善い行動を「気持ちよく」「お得に」感じさせている。 罪悪感で人を動かすのではなく、招き入れているのだ。   未来はそこにある。   説教ではなく、ストーリー。 道徳的優越ではなく、市場での関連性。   ビジネスは“価値”で動く 価値観は大事だ。だが、価値創造も同じくらい大事だ。 企業がサステナビリティへ投資するには、それが成長、ロイヤルティ、レジリエンスを生むと示さなければならない。   「パーパス」は後光ではなく、 商業的な力を証明する必要がある。   倫理だけでは、もはや企業を誘惑できない。 必要なのは、「良いことが良いビジネスになる」という確かな報酬だ。   証拠のないパーパスでは不十分。   責めるのではなく、伴走する では、ここからどこへ向かうべきか?   ✔ 純粋さではなく、参加を増やす。 進歩は大きなジャンプではなく、小さな一歩の積み重ねで生まれる。 「十分にグリーンじゃない」と嘲笑すれば、その第一歩すら止まる。 不完全でも前進を称えよう。   ✔ 非難ではなく、支援に変える。 企業を変えたいなら、罪悪感ではなく“エビデンス”で導くべきだ。 高みからの説教ではなく、実践的な解決策を。   ✔ もっと“人間的”に。 サステナビリティは生活とつながった時に力を持つ。 「より良い朝食」「きれいな空気」「安全な未来」── 人々が“自分ごと”として感じられるように。   正直さと包摂への呼びかけ COP30の議論に、世界はもう高尚な約束だけを求めていない。   必要なのは証拠だ。   結局、それは「より良い暮らし」についての話なのだから。 私たちは“いじめ”をやめ、“構築”を始めなければならない。 美しい言葉の影に隠れるのではなく、その商業的な根拠を示すべきだ。 知識があるのなら、他者を閉め出すためではなく、持ち上げるために使うべきだ。   サステナビリティは“道徳的に優れている”ことで勝つのではない。 商業的にも、文化的にも、人間的にも、“魅力的”であることで勝つのだ。

ーまだ「サステナビリティは流行」だと思っている?ー by Thomas Kolster | NECSUS GREEN FILE

ーまだ「サステナビリティは流行」だと思っている?ー by Thomas Kolster

サステナビリティは、オーツミルクやフィジェットスピナー*のように、一過性のブームなのだろうか。 もし2025年にも同じ問いを投げかけているとしたら、すでに時代の文脈を見誤っているかもしれない。 私はWARCと協働し、2014年から2024年までの10年間にわたる「WARC Effective 100」のデータを分析した。10年分のデータが、まったく違う物語を語っている。これは、世界中の広告賞の中でもっとも効果的と評価されたキャンペーンを指標化したものだ。 そのランキングを精査し、社会的あるいは環境的メッセージを含むキャンペーンを抽出したところ――結果は明快だった。 全体の約3分の1が、そうしたテーマを扱っていた。年ごとの割合は2015年の19%から、2021年の39%まで変動していたが、注目すべきはその「波」ではなく、「継続的な存在感」そのものだった。 「審査員が“いい話”に弱いだけでは?」 そう思う人もいるだろう。しかし10年にわたって持続的に評価されてきた事実は、より深い構造変化を示している。 これは気まぐれなマーケティングの潮流ではない。広告産業のDNAが、根本から書き換わりつつあるのだ。 サステナビリティ、多様性、インクルージョン。 それらはもはや“クリエイティブな飾り”ではない。ブランド戦略の中核を形づくる要素である。 化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が世界規模で進むように、広告もまた独自の進化を遂げている。 かつては急進的に見えたDoveの「Real Beauty」やBenettonの挑発的な広告が、いまではメインストリームの象徴になっている。 感情は機能を超える――結果もそれを裏づける ブランド構築において、感情に訴えるキャンペーンが機能訴求型を凌駕する――これは昔から知られてきた真理だ。そしてWARCの分析をはじめ、業界のあらゆる調査がそれを繰り返し確認している。 今日、もっとも効果的な広告は、製品機能ではなく「価値・アイデンティティ・目的」を語るものだ。 たとえば、Alwaysの「#LikeAGirl」キャンペーン。 羽の形状や吸収力を説明する代わりに、文化的な侮蔑表現をエンパワーメントのメッセージに変えた。 それは単に商品を売るだけでなく、社会の会話を変え、人々の感情とつながった。 一方で、技術的な製品デモを思い出せるだろうか? どちらが記憶に残り、共有され、何年も後に語り継がれるだろう? これは「タイムマシン」で戻れる瞬間ではない 今回の分析結果は、まさに転換点で明らかになった。 世界中――特に内向きになりつつあるアメリカ――では、社会的・環境的な進歩を巻き戻そうとする動きが見られる。 だが、データは別の物語を語っている。 消費者の意識は後退していない。 人々は依然として、自分たちの生活を形づくる課題に対して「企業が先導すること」を期待しているのだ。 そして、その多くはサステナビリティそのものに関わる。 食料品の価格、エネルギー費、交通の脱炭素、水質。 企業が「2035年までにネットゼロ」といった曖昧で遠い未来を語っても、人々の心には届かない。 いま、目に見える形で行動するブランドこそが共感を得ている。 今月初め、英ガーディアン紙が「89%プロジェクト」を立ち上げた。 これは、世界の8~9割の人々が気候対策の強化を支持しているという調査結果を紹介するものだ。 つまり、これは一部の過激派の声ではなく、“多数派の意思”である。 WARCで評価されたSK-IIやDoveなどのブランドは、こうした社会意識と歩調を合わせるだけでなく、長期的なインパクトを生み出している。 長期思考が勝利する 政治の風向きがファッショントレンドより速く変わる時代に、 マーケターは“今っぽさ”を追いかけたくなるかもしれない。 だが、持続するブランド価値は「文化のポケモン狩り」では築けない。 一貫性、明快さ、そして勇気によってこそ培われる。 サステナビリティはギミックではない。 それは、もっとも効果的なブランドが未来を定義するためのレンズである。 ――これは流行ではない。本物の「持続力」そのものである。 *ボールベアリングを利用した玩具。ハンドスピナー。 次回もどうぞお楽しみに。

異文化マネジメント最前線 挽野元=アイロボットジャパン合同会社代表執行役員社長(当時) | NECSUS GREEN FILE

異文化マネジメント最前線 挽野元=アイロボットジャパン合同会社代表執行役員社長(当時)

2025年10月25日にNECSUS特別セミナーに登壇した、本学教員予定者の挽野元・社長にショートインタビューをお願いしました。なお、講師の肩書は取材当時のものです。 Q1.理論及びそれに基づいた実践への応用で、サステナビリティを重視する時代だからこそ留意すべき事柄があれば教えてください。 「持続可能性を意味するサステイナビリティという言葉はいろいろな文脈を含んでいます。環境的要素、社会的要素、経済的要素が主なポイントです。最近の米中の覇権争いやグローバルサウスの台頭など、グローバリズムとナショナリズムが複雑に交わりあう現代においては、各国ごとに持続可能性の中のどの要素を重要視するかの濃度が微妙に異なってきているのではないかと思います。 サステイナビリティに関しては、One Fits Allにならないことを前提に、自分の中の定義であっているはずという暗黙の了解を是とせず、ローコンテキストを前提にしっかりと明文化したコミュニケーションを実施していくべきではないかと考えます。」 Q2.GX時代の戦略的変革リーダーが、異文化マネジメント力を高めるためには、どのような学びをするとよいでしょうか? 「まず、文化的背景に合わせて、指示・支援・委任のバランスを調整する適応型リーダーシップを実践できる能力を高める学びをすることが大事になってくるのではないでしょうか。これに加えて、明示的・暗示的なメッセージに使い分けや、相手のスタイルに応じた伝達方法の調整などの多層的コミュニケーションの習得もした方がいいかと思います。 また、異文化マネジメントは一度で完結することはなく継続的な学びの姿勢が求められます。実践と理論を往還し、相互尊重を前提に多様性を強みに変えていく意識を持ち、自分が置かれている状況に合わせた独自の解決策を創造していくスキルもマスターしていくと異文化マネジメントが楽しくなってくると考えます。」

まだ“芽生え”の写真でサステナビリティを語ってる? ーそろそろ、ビジュアルをアップデートしようー by Thomas Kolster | NECSUS GREEN FILE

まだ“芽生え”の写真でサステナビリティを語ってる? ーそろそろ、ビジュアルをアップデートしようー by Thomas Kolster

もしサステナビリティがマッチングアプリのTinderにプロフィールを作るとしたら、そこに並ぶのはいつもの三点セットだろう。 風力発電のタービン、ホッキョクグマ、そして―もちろん―しっとりした手に包まれた小さな芽。 ……左にスワイプ。一択だ。 想像力はどこへ行った? よりよい世界を「思い描けない」まま、どうやってそれを「創り出す」ことができるだろうか。 この20年、私たちのサステナビリティのビジュアル表現は、悲劇的な破滅か、夢のような抽象表現に偏ってきた。 だが、そのどちらも、もはや人の心を動かせていない。 Getty Imagesの最新レポート『Sustainability at the Crossroads』は、この問題に真正面から取り組んでいる。 年間27億件の画像検索データ、25市場・10万人超の回答者、60名を超えるビジュアル専門家の知見を分析した結果、気候変動の「イメージ」がどのように進化し、どこで停滞しているのかが見えてきた。 2000年代初頭、環境を象徴するビジュアルといえば、煙突、油流出、融ける氷河といった“災厄の絵”が定番だった。 そして今――私たちは「手のひらの芽」に囚われている。 2025年のいま、誰もが「気候」を語りたがる一方で、「何を見せるか」については沈黙している。 見せ方が、未来の想像力を形づくる これは、ただのデザイン論ではない。 ヨーロッパでは74%の人が「実際の進展を感じられるビジュアル」を求めている。 それでも業界は、記号的なイメージに頼り続けている。 現実味のない物語に、人々はもう共感しない。 では、どうすればいいのか。 Gettyのレポートは、ビジュアルストーリーテリングを再構築するための5つの戦略を提示している。それは、現実の行動を促す新しい“見せ方”のヒントでもある。 完璧よりも、本物を。 人々が求めているのは「無傷の理想」ではなく「誠実な現実」だ。 傷や汚れ、葛藤を含めた“ありのまま”のビジュアルこそ信頼を生む。 進歩とともに、そこにある苦労も見せよう。 PRの完成形ではなく、“いま進行中の挑戦”を讃えるのだ。 不安だけでなく、希望を。 気候危機は深刻だ。だが、恐怖だけでは人は動かない。 研究でも、「危機感」と「実現可能な行動」を組み合わせた方がはるかに効果的だと示されている。不安をあおるより、解決への道を照らそう。課題と、それに立ち向かう姿を並べて見せよう。 テクノロジーの“グリーンな力”を伝える。 AIによるリサイクルや発電窓など、グリーンテックはすでに現実の産業を変えつつある。それなのに、その映像はどこか無機質で遠い。 テクノロジーを“人の手”の中に取り戻そう。 ソーラーパネルを設置する人、廃棄物を分別する人、エネルギーを節約する人―― その動きこそが未来を映す。 「持続可能」は、我慢の物語ではない。 人々は、“犠牲”よりも“実現可能な変化”に心を動かされる。 日常の延長にある行動―コンポスト、再利用、節電。 そんな身近な実践をリアルに描くことが鍵だ。 完璧な理想ではなく、「自分にもできる」と思える行動を見せよう。 サステナビリティを“組み込む”。 優れたブランドは、環境への取り組みを「付け足し」ではなく「基盤」として考える。製品設計から顧客体験まで、静かに一貫して流れる価値観として。 そのビジュアルは、派手でも誇張でもない。 自信と誠実さを湛えたトーンこそが、長期的な信頼を築く。 私たちは、物語ではなく「可能性」を見せているか? 画像は飾りではない。 それは、私たちの思考と感情、そして行動を形づくる。 だが今のサステナビリティ・ビジュアルは、恐怖か、あるいは使い古された象徴で人を麻痺させている。 いまこそ、新しいビジュアル言語を。 理想ではなく、現実を。 無機質なアイコンではなく、生きた人間を。 “伝える”だけでなく、“招き入れる”表現を。 次に、あなたが「光に包まれた芽」や「夕日に映える風車」の画像を投稿しようとしたとき、自問してみよう。 ―この一枚は、誰かを動かすだろうか? それとも、ただ流されていくだけか? もう比喩は十分だ。 今こそ、「変化の現実」を見せよう。

「待ったなし!サステナビリティ経営への変革」 特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラム 理事・特別顧問 後藤敏彦氏インタビュー | NECSUS GREEN FILE

「待ったなし!サステナビリティ経営への変革」 特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラム 理事・特別顧問 後藤敏彦氏インタビュー

9月20日にオンライン開催したNECSUS特別セミナーでは、「待ったなし!サステナビリティ経営への変革」と題し、特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラムの後藤敏彦=理事・特別顧問にご登壇頂きました。 以下、セミナー後の紙上インタビューです。ご覧ください。 Q1. 日本でサステナブル経営が広まる中で、今後課題となりそうなのは何でしょうか? 海外との比較を含め、お気づきのことがあれば教えて下さい。 A1. 経営層とマネジメントに関わる課題に関しては2.にまとめます。以下は今後課題になりそうなことを例記してみました。 ①日本社会での「人権」認識と世界の「人権」認識にかなりズレがあること。良し悪しの問題ではないので、認識にずれがあることの認識の普及が課題。 ② 日本は「失われた30年」といわれるように産業資本主義からポスト・インダストリアル社会への対応が遅れている。個々の企業の業種・業態で対応は異なるが待ったなしの状況にある。経済システムのダイナミックな動きの認識向上が必要。 ③ サステナビリティ課題はダイナミック(流動的)である。世界が動くにつれ次々に新しい課題が生まれてくる。あえて2つだけあげておく。 ひとつは、平和への対応課題。世界が益々平和でなくなりそうなとき、個々の企業では如何ともしがたい課題であるが、状況が悪くなればなるほど何らかの対応が求められる。 もうひとつはAIの問題。生成AIは単なるコンピューター(ツール・道具)では無い、既にこの1~2年でツールからパートナーというかメンバーというか人間に替わって仕事の中核になりつつある。日本はDXと言いながら単なるデジタル化に止まっており、トランスフォーメーションとはほど遠く、生成AIどころではないといってもよい状況かもしれない。AIとの付き合いは米国や中国とは大きく遅れているようである。 Q2. 企業がサステナブル経営にプロアクティブに取り組むため、ビジネスリーダーにはどのような資質、スキル、態度が求められるか? A1. 経営層・ビジネスリーダーの課題と、マネジメントの課題を分けます。 ① 経営層、ビジネスリーダーの資質、スキル、態度 これには無数の経営指南書が出ている。それを読むとスーパーマンにしか経営ができないことになってしまいかねない。あえて2つだけあげておく。 ひとつは、歴史に関する深い認識・洞察力である、哲学ともつながるが。歴史は同じ通りには繰り返さないが、変化の時代には洞察力の基盤には歴史観と哲学は必須である。 ふたつめは多様な人材を束ねて成果に結びつけるマネジメント力である。束ねる組織の業種・業態、その組織の歴史などにより必要とされるマネジメント力は一様ではない。いずれにせよ多様性マネジメントがキーである。ティール・グリーン・オレンジ・アンバー・レッド組織、どれもあり得るし、一つの企業の中でも目的により何が良いかは簡単なことではない。 ② マネジメントの課題 最初に、マネジメントは管理(コントロール)とは違う。ガバナンスの原義は「舵取り」であって「統治」ではない。ましてやマニュアルに従った管理(コントロール)はマネジメントの最下層部分にすぎない。 2つだけ例示。 ひとつは、バリューチェーン・マネジメント(VCM)。日本企業はこれまで単体(よくて連結)のマネジメントで過ごしてきたが、これからはVCMが必須になる。この場合、従来型のマネジメント=超生真面目な微細なマネジメントは百害になる。どうマネジメントするか。 ふたつめは、トップにスーパーマンを期待することは殆どできないとすれば、ミドルアップ・トップダウン型を徹底することが肝要と思われる。そのためにもミドルのスキル・アップ、リスキリングが極めて重要になる。キャリア採用ということだけで済まされる課題ではない。

これが信頼を築くサステナ発信だ -社内広報戦略5つの方法- by Antti Isokangas | NECSUS GREEN FILE

これが信頼を築くサステナ発信だ -社内広報戦略5つの方法- by Antti Isokangas

多くの企業はすでに、サステナビリティ・コミュニケーションが単なる広報活動ではなく、経営戦略の一部であり、信頼を築き、企業の評価を形づくるものであることを理解している。 しかし、多くの企業が見落としていることがある。それは「社内の発信が働き方そのものを変える」という点である。 社員は最初にして最も重要な受け手である キャンペーンを展開し、報告書を出し、新たな取り組みを始める前に、自問すべきは「社員は理解しているか」である。 理解していれば、社員は企業の強力な応援団となり、質問に答え、リスクを見抜き、自分の言葉でストーリーを広げることができる。 理解していなければ、混乱、部門間の不一致、懐疑的な管理職、そして顧客にまで伝わる不信感を生む。 内から外への発信は必須である 強い社内コミュニケーションとは、社内報での小さな記事ではない。時間をかけて「どこへ向かうのか」「なぜ重要なのか」「自分の役割にどう関わるのか」を共有することである。 例えばデンマークの海運大手マースクは、環境移行を進めるにあたり「My Learning Academy」などの学習プラットフォームを通じ、継続的学習文化を社員に提供している。さらに、低炭素燃料を扱うための「Maritime Decarbonization Suite」など専門的研修を行い、社員が変化に対応できるよう支えている。 フィンランドのマリメッコは、素材や循環型の取り組みに関して社員を早い段階から議論に参加させ、デザイナー、調達担当、店舗スタッフをパイロットプログラムやワークショップに巻き込んでいる。誰もが自分の仕事と企業の長期的な環境目標とのつながりを理解している。 Sグループでは、日常業務そのものにサステナビリティを組み込み、食品廃棄削減や生物多様性への理解を全店舗や物流、接客にまで広げている。 サステナビリティは雇用ブランドの一部である 10年前、サステナビリティは採用において「あると良いもの」だった。しかし今では基準そのものであり、とくに若い世代にとって重要である。応募者は企業の気候や社会的責任への姿勢を「入社するか否か」の判断材料としている。 フィンランドのネステ(再生燃料大手)やアウトクンプ(低炭素ステンレス大手)は、採用活動においてサステナビリティを中心に据えている。彼らはエネルギーや鉄鋼の未来を形づくるうえで「移行」「課題」「社員一人ひとりの役割」を率直に語っている。サステナビリティは「事業の一部」ではなく「事業そのもの」である。 調査によれば、Z世代の就職希望者は環境責任、透明性、目的意識を最重要視している。この傾向は創造的職種やNGOに限らず、物流、技術、金融、生産部門にまで広がっている。 社員体験に裏付けられないサステナビリティ主張は、無意味どころか信頼を損なうリスクである。 メッセージは一様ではなく調整が必要である 社外向け発信を投資家、顧客、パートナーに応じて変えるように、社内発信も多様な社員に合わせる必要がある。価値観を変えるのではなく、役割に即した例や形式に翻訳するのである。 例えばフィンランドの食品大手ファッツェルは、パン職人や販売員といった現場社員に対して、食品廃棄や地域への影響、チーム単位の指標など、日常に直結するテーマを用いてサステナビリティを伝えている。 風力大手ヴェスタスでは、サステナビリティを生産や保守、開発にまで組み込み、役割ごとの指標や協働計画を通じて浸透させている。 また、調整とは「聞くこと」でもある。部門や地域によって信頼度や関心は異なる。相手を理解すればするほど、効果的に巻き込むことができる。 社員ネットワークの活用 効果的でありながら十分に活用されていない手段の一つが、社員によるリソースグループ(ERG)である。サステナビリティ分野では、社員が自発的に組織内で活動するネットワークが存在する。 フィンランドのコネ社では、社員主導のサステナビリティ・ネットワークが、グローバル目標を地域の行動へと落とし込んでいる。スウェーデンでは建設パートナーシップ、トゥルクでは物流包装の廃棄削減など、地域ごとに活動している。これらは企業のサステナビリティ部門や広報部門と連携し、社員の主体性と信頼を高めている。 北欧の他企業でも、正式なERGに限らず、横断的なプロジェクトチームや「サステナビリティ大使」プログラムとして機能している。社員主導の取り組みは、価値を部門横断的に広げ、責任を上層部だけでなく全社で共有することにつながる。こうしたグループは「内部の健全な圧力」としても働き、経営陣が見落とす視点を突きつけ、組織全体を正直に保つ役割を果たす。 社内コミュニケーションを強化する5つの方法 ・サステナビリティを事業そのものに結びつける。価値観だけでなく成長や効率、強靭性と関連づける。 ・役割に合わせた発信をする。購買担当と整備士は求める情報が異なる。 ・本物の声を使う。社員自身の語りやチーム単位の物語が信頼を築く。 ・一方通行ではなく対話に投資する。アンケートやワークショップで本音を理解する。 ・小さな成功を祝う。店舗やチーム単位の前進を評価することで勢いが生まれる。 文化こそが真のブランドである 情報があふれ、約束が疑われる時代において、信頼できる社内文化こそ最大の武器であり資産である。社員が使命を理解すれば、彼らは最も強力な発信者となる。 逆に社員が理解していなければ、どれほど立派なキャンペーンも意味をなさないのである。

嵐の中で揺るがない姿勢 -分断社会におけるサステナビリティ・コミュニケーション- by Antti Isokangas | NECSUS GREEN FILE

嵐の中で揺るがない姿勢 -分断社会におけるサステナビリティ・コミュニケーション- by Antti Isokangas

サステナビリティ・コミュニケーションの第一のルールが「信頼を築くこと」であるならば、第二のルールは「風が強まってもバランスを保つこと」である。 そして今日、その風は確実に強まっている。 気候は温暖化し、経済は冷え込み、社会は分断されつつある。エネルギー政策から植物性ミルクに至るまで、あらゆる事柄に文化的な対立の溝が走っている。この状況下では、企業が行うサステナビリティに関する穏やかな声明でさえ、過剰な反応を引き起こす可能性がある。 しかし、沈黙は選択肢ではない。 文化戦争の時代へようこそ 分断はもはや一部の現象ではない。気候変動対策、多様性、国際的責任への見方は、国々でアイデンティティの象徴となっている。単なる「意見の違い」ではなく、相手を否定しなければならない空気がある。 米国では、バドライト、ターゲット、パタゴニアのキャンペーンが強い反発や不買運動を招いた。問題は彼らが何をしたかではなく、「何を象徴している」と受け取られたかにあった。 こうした動きは米国に限られない。安定と高信頼で知られる北欧でも見られる。例えばオーツ麦飲料のオートリーは、植物性食品を推進しすぎて「急進的だ」と批判される一方、大手食品企業と提携したことで「価値を妥協した」と非難されるなど、両側から攻撃を受けている。 ノルウェーやスウェーデンでは電気自動車への優遇策が対立の焦点となり、必要な気候政策とみる人と、エリート向けの特権とみる人に分かれている。フィンランドでは、乳業大手ヴァリオが「カーボンニュートラル牛乳」を掲げたキャンペーンで反発を受けた。「炭素中立の牛」という言葉はすぐにネットミームとなり、意図したメッセージは広がる前に失われた。 圧力の下で:DEIが政治の標的になるとき 米国では近年、一部企業が政治的圧力を受け、多様性・公平性・包摂(DEI)の取り組みを縮小したり、表に出さなくなった。特に保守派の政策立案者や法的な挑戦が強まり、投資ファンドや大手小売業者までもが言葉を和らげ、活動を目立たなくしたのである。 目標が変わったのではなく、政治的コストが高まったからである。 この流れは大きく報道され、企業が「価値に基づく活動」から退くのではないかという懸念を生んだ。 しかし実際は、多くの企業がDEIを放棄してはいない。むしろ、才能の確保や革新性、長期的な持続性に不可欠と考え、取り組みを強めている企業も多い。 北欧では状況は異なるが、同じ教訓が当てはまる。世論は急に変化し、社会的期待が攻撃の道具にされることもある。しかし、サステナビリティや包摂から「論争を避けるために」退くことは、内外に誤ったメッセージを送ることになる。圧力が高まるときこそ、価値観に根ざし、一貫して語り、行動し続ける企業が強くなるのである。 ビジネスは中立ではない 「どちらの立場もとらない」として沈黙を守る企業もある。しかし、サステナビリティや平等について語ること自体が、すでに「未来は大切である」「証拠は重要である」「公平さは必要である」と立場を示しているのである。 中立を装って反応を避けようとすることは、たいていうまくいかない。人々は恐れを嗅ぎ分ける。そして恐れはブランドにとって大きな弱点である。 従業員は企業がどこに立つのかを知りたい。投資家は企業が何を重視しているのかを知りたい。沈黙は盾ではなく、空白である。 声を大きくするのではなく、明確に語ること サステナビリティ・コミュニケーションの目的は、ネット上の議論に勝つことではない。人々を行動に動かし、企業が「どのような未来をつくろうとしているか」を示すことである。 そのためには勇気と明確さ、そして少しの謙虚さが必要である。 フィンランドのエネルギー企業ヘレンは、石炭廃止を明確に打ち出しつつ、再生可能エネルギーへの移行の難しさも率直に語っている。ノルウェーのエクイノールもまた、化石燃料を守る論理から、移行の現実を正直に語る姿勢へと変化している。 嵐の中でバランスを保つためのヒント ・言いたいことを明確に述べること あいまいな表現は誰の心にも響かない。具体的な数字や事実を示すことが重要である。 ・複雑さを認めること サステナビリティはトレードオフに満ちている。その事実を正直に共有することが信頼を生む。 ・自らの声を知ること すべてにコメントする必要はないが、企業の戦略や価値に関わる課題には明確な立場を示すべきである。 ・反発に備えること 本気で取り組めば必ず反対も起こる。それは避けられない。重要なのは事前に準備し、一貫した立場を持つことである。 ・信頼は勇気から生まれる 分断はすぐには消えない。むしろ悪化する可能性すらある。 しかし、明確さと自信をもってこの嵐を乗り越える企業は、より強くなる。信頼は沈黙からではなく、目的を示し、嵐の中でも揺るがずに立つことから生まれるのである。

世界気候エネルギー首長誓約/日本 杉山範子事務局長 紙上インタビュー | NECSUS GREEN FILE

世界気候エネルギー首長誓約/日本 杉山範子事務局長 紙上インタビュー

Q1 気候変動により予測される悪影響と、それに対する地域の対応につき、具体例を教えてください。 悪影響は、地域の気候や産業など、地域性があるため、一様ではありませんが、最も一般的に実施されているのは、熱中症予防対策と防災対策です。 予測される悪影響は、例えば熱中症の場合は、暑熱による健康影響を受ける、最悪の場合は死亡する。これを避けるため、地方自治体は「クーリングシェルター」を設置することとなっており、住民が日中の暑さを避けて過ごすことができる場所を提供しています。ほとんどすべての自治体で実施しています。 このページに様々な事例が紹介されています。 https://adaptation-platform.nies.go.jp/data/index.html#data01 他に、グリーンカーテンの設置を推奨し、コンテストを実施しているところなどがあります。 Q2 上記に係り、世界首長誓約の意義、現状と課題を教えてください。 誓約自治体は、規模の大小にかかわらず、緩和策である脱炭素の取組だけでなく、適応策にも取り組まなければならないため、地域の適応策が進みます。 世界首長誓約では、地域のリスクと脆弱性の評価をしてから目標や具体的な対策を決めることとしており、地域性を把握した取組を進めることができます。リスクと脆弱性評価は事務局がアドバイスなど支援することもあります。 気候変動の影響は全ての分野に及びますが、行政の縦割りが弊害になっています。 適応計画は環境の部署が担当ということになり、他の部署との連携が課題です。 防災や農業などすでに適応策と言える施策を実施しているところが多いなか、どのように既存の施策を適応策と位置づけるか、地域の脆弱性から施策の優先順位をどのように決めるのかなど、課題が多くあります。 一般の方々の認知度が、緩和策に比較して、適応策の方が低いことも課題です。

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